原口元気から消えた“独善的プレー” 自らを犠牲に他者を生かす、三十路を迎えたMFのサッカーストーリー“第2章”

豪州とのアウェー戦で終盤に出場、味方をフォローアップして2得点に関与

 カタール・ワールドカップ(W杯)本大会への出場が懸かった大一番のオーストラリア戦で、原口は最近の代表戦と同じくベンチスタートとなった。黙々とウォーミングアップに励むなかで試合はスコアレスで推移していた。その間、おそらく彼は自らの殊勲ではなく、日本が最も勝機を得られる方策に一点集中していたに違いない。

だからこそ、このまま引き分けで迎えるかもしれない最終戦のホーム・ベトナム戦にも思いを馳せながら、後半39分にMF田中碧に代わってインサイドハーフに入った後はボールを広範囲に動かす作業に没頭した。

 右エリアへ場面展開し、すぐさまフォローアップして右サイドバックのDF山根視来へボールを引き渡す。ここからMF守田英正とMF三笘薫へ繋がる“川崎ホットライン”が炸裂して待望の先制点が生まれたなか、原口は一連のアクションで一切、蛮勇(ばんゆう)を振るわなかった。

 2点目のダメ押し点も原口が三笘に受け渡したパスがきっかけとなった。この時も前のめりになることなく、むしろ時計の経過を目論んだスローアクションを選択した。血気盛んな頃は最小得点差のリード時でも玉砕上等の個人アタックを仕掛けた彼が、W杯本大会出場決定が目前に迫るなかでチームの勝利に邁進している。

 三笘のプレーがワンダーだった影で、その佇まいには歴戦の猛者たる重厚な趣があった。サムライブルーで「8」の背番号を纏う原口は、ドイツサッカー界の現場用語で「アハター(背番号8の意)」、すなわち「攻守両面で多大な役割を担う」責務を十全に負っていた。

 日本のゴールが決まった直後、原口はいずれも控えめに歓喜し、淡々とその場に佇んでいた。唯我独尊な若き日々を経て新たなる境地を得る。チームプレーの尊さと、それに邁進することで得られる成果に打ち震える。この静謐(せいひつ)な手応えは三十路を迎えた今だからこそ体感できる至福の勲章だ。

 だからこそ思う。数分間の貢献では満足しない。ウニオンで携えた自信と誇りを胸に、サムライブルー・原口元気は、自らのサッカーストーリーの第2章を鮮やかに彩る蒼炎の野心に燃えている。

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島崎英純

1970年生まれ。2001年7月から06年7月までサッカー専門誌『週刊サッカーダイジェスト』編集部に勤務し、5年間、浦和レッズ担当を務めた。06年8月よりフリーライターとして活動を開始。著書に『浦和再生』(講談社)。また、浦和OBの福田正博氏とともにウェブマガジン『浦研プラス』(http://www.targma.jp/urakenplus/)を配信しており、浦和レッズ関連の情報や動画、選手コラムなどを日々更新している。2018年3月より、ドイツに拠点を移してヨーロッパ・サッカーシーンの取材を中心に活動。

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