“デュエル王”の遠藤航、ブンデスで「8番のポジション」を担うワケ 主将に求められた新たな役割
守備タスクだけでなくゴールに関わる仕事も求められている遠藤
伊藤は着実にチーム内での立場を確立しつつある。この日はDFヴァルデマール・アントンと組んで4バックのセンターバックに入り、攻撃の起点、そして守備では最終防御者としての任を託されてフル出場を果たした。
今試合で伊藤が1回だけ肝を冷やしたのはウニオンのエースFWタイウォ・アウォニイに抜け出されてシュートを許し、ボールがゴールネットに収まったシーンだろう。これはオフサイドの判定で辛うじて難を逃れたが、クイックネスに優れるアウォニイへの対応を今一度再認識する必要性が生じた場面だった。
それでも大半の時間帯では強烈なフィジカルワークを敢行するウニオン攻撃陣に堂々と立ち向かってPKによる1失点のみに抑えた。特に際立ったのは頻繁に手を叩いて味方を鼓舞していた所作だ。2021年7月にジュビロ磐田からのローンでシュツットガルトに加入した伊藤は今季、ブンデスリーガ22試合出場、DFBポカール2試合出場と純然たる主力DFとして貢献している。
ローン期間は今年6月末までだが、このままいけば、シュツットガルトは約300万ユーロ(約4億円)の移籍金を磐田に支払って22歳の若武者を正式に手中に収めるだろう。
一方、チームキャプテンの遠藤はペレグリーノ・マテラッツォ監督から新たな役割を与えられつつある。4-3-2-1システムの「2」にあたるインサイドハーフ、本人曰く「8番のポジション」で攻守両面に渡る貢献を求められているのだ。
遠藤はJリーグの湘南ベルマーレ、浦和レッズ、そして欧州での最初の地となったベルギーのシント=トロイデンでは主にストッパーやボランチで起用されてきた。そして2019-20シーズンにシュツットガルトに加入してからもボランチ、もしくはアンカーでその名声を高めてきて、昨季のブンデスリーガでリーグナンバーワンのデュエル勝利数を記録した彼は、ドイツでも有数の中盤の制圧者として認知された。
一方で、今季のシュツットガルトは新型コロナウイルスの陽性反応者や怪我人の続出でベストメンバーを組めない時期が長く続き、その結果、リーグで勝点を積み上げられずに残留争いを強いられる状況が長く続いていた。
そこでマテラッツォ監督は191センチの体躯を誇るDFアタカン・カラゾールをアンカーに固定して中盤中央のディフェンス力を維持しつつ、遠藤を1つ前方のポジションに据えることで広範囲におよぶ局面強度の維持を目指した。また遠藤には守備タスクだけでなくゴールに関わる仕事も求め、キャプテンは指揮官の意思をしっかり汲み取って重要な職務を全うする覚悟を決めている。
島崎英純
1970年生まれ。2001年7月から06年7月までサッカー専門誌『週刊サッカーダイジェスト』編集部に勤務し、5年間、浦和レッズ担当を務めた。06年8月よりフリーライターとして活動を開始。著書に『浦和再生』(講談社)。また、浦和OBの福田正博氏とともにウェブマガジン『浦研プラス』(http://www.targma.jp/urakenplus/)を配信しており、浦和レッズ関連の情報や動画、選手コラムなどを日々更新している。2018年3月より、ドイツに拠点を移してヨーロッパ・サッカーシーンの取材を中心に活動。