長谷部&鎌田所属のフランクフルト、ELに懸ける特別な思い その情熱は業火のごとく灼熱の熱さだ

鎌田が走り、長谷部も走った 信じられないような現実に全員が歓喜

「ボランチを経由してボールを左右に展開し、相手に揺さぶりをかけたかった」とグラスナーは試合後に狙いを明かしたが、ゲームの流れを上手くコントロールできず、ボールを奪っても慌てて縦へと展開するシーンが散見してしまう。細かいミスも少なくなかった。何度かいい形でゴール前に迫るもポストを直撃するなどゴールを奪うことができない。

 第1戦を2-1で勝利しているので、引き分けでも次ラウンド突破は決まる。サイドを起点に仕掛けようとするベティスの攻撃を上手く跳ね返せていたし、このまま終了するかと思われた後半44分、左サイドからのクロスをFWが上手く合わせて土壇場で同点に追い付かれてしまう。

 記者席ではスペイン人記者が机を叩いて大喜びし、静かだったベティスファンはここぞとばかりに雄叫びを上げる。一瞬、静まり返ったスタジアム。でもフランクフルトファンはすぐにまた歌いだした。「俺たちの戦いは、まだ終わっていない」という思いを込めて、これまで以上にチームを鼓舞しようと熱量のこもった声援をグラウンドに送り続ける。チームはまた立ち上がり、闘う気持ちが充電されていく。

 延長戦に入ってもフランクフルトは攻め続け、ベティスも虎視眈々とカウンターチャンスを窺う。どちらも決め手を欠いたまま、PK戦突入かと思われた120分。ついに試合が動いた。コスティッチのFKがゴール前に送られる。ベティスGKやDFが必死にクリアしようとする間に体ごと飛び込んだ男がいた。ヒンターエッガーだ。

 どうやってかなんてどうでもいい。ボールは間違いなくゴールへと吸い込まれていった。はじけた様にみんなが駆け出した。ベンチからはグラスナー監督が、全選手が、スタッフが、喜びの輪に駆け出した。途中交代していた鎌田が走った。長谷部も走った。スタジアム中で飛び跳ねて、抱き合って、声を出し合って、信じられないようなこの現実をみんなで確認し合った。

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中野吉之伴

なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。

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