長谷部&鎌田所属のフランクフルト、ELに懸ける特別な思い その情熱は業火のごとく灼熱の熱さだ
【ドイツ発コラム】ELに本物の熱狂をもたらしたフランクフルト
MF長谷部誠とMF鎌田大地が所属するドイツ1部フランクフルトにとって、UEFAヨーロッパリーグ(EL)は特別の大会だ。フランツ・ベッケンバウアー氏が「敗者のカップ戦」と揶揄したこともあったし、ELに回ることになった強豪クラブの中にはリーグ戦に向けて戦力を温存し、あっさりと敗退することだってあった。
そんなELに本物の熱狂をもたらしたのがフランクフルトではないだろうか。
準決勝進出を果たした2018-19シーズンは今でもファンの間では語り草。対戦相手がその2シーズン後にUEFAチャンピオンズリーグ(CL)で優勝したチェルシーというのも素敵じゃないか。アウェー戦にも大挙として押しかける。身体全身でチームを応援し続ける。そんなファンのサポートをバックに、選手は自身の持つポテンシャルを最大限引き出そうと闘志を燃やす。
オーストリア代表CBマルティン・ヒンターエッガーがこんなことを言っていた。
「ファンが僕をどこまでも走らせてくれる。足を痛めて動けなくなった時も、終盤息が苦しい時も、彼らのサポートは本当に素晴らしい。僕に新たな力を与えてくれるんだ」
フランクフルトにとってELは特別だ。本来であれば、どんな試合で満席になる。その情熱は熱いなんてもんじゃない。業火のごとく灼熱の熱さだ。このクラブでプレーするもの、指導するもの、スタッフとして関わるものはすべてそれが意味することを正しく理解しなければならない。
10月に行われたグループリーグのオリンピアコス戦は3-1で快勝し、地元フランクフルトの記者に「フランクフルトにとってのELの重要さを実感しただろうか?」と尋ねられたグラスナー監督は、「この雰囲気を楽しませてもらった。ホームのこの雰囲気で戦えたことは素晴らしい。そしてファンのみんなに勝利で味わってもらうことができてよかった」と嬉しそうに答えていたことを思い出す。
それだけに、コロナ禍でさまざまな条件をクリアしなければならないことは分かったうえで、ベティスとの第2戦が満員にならなかったことを誰よりも悔しそうにしていた。許可されたのは50%のキャパシティ。それでも、フランクフルトファンの力強さは健在だった。
中野吉之伴
なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。