実質的なロシアの締め出しも? ウクライナ侵攻によるヨーロッパサッカー界への影響
【識者コラム】ロシア企業の撤退、ロシア人選手の移籍機会の喪失が懸念材料
ロシア軍がウクライナへの侵攻。サッカー界でもさまざまな影響が出ている。
欧州サッカー連盟(UEFA)は、UEFAチャンピオンズリーグ(CL)決勝を開催予定地だったロシアのサンクトペテルブルクからフランスのパリへ変更。国際サッカー連盟(FIFA)はまだ決定はしていないが、カタール・ワールドカップ(W杯)予選プレーオフの開催地を変更する可能性がある。ロシアはポーランド、スウェーデン、チェコと同組になっていて、3月24日にロシア対ポーランドが控えている。ロシア以外の3か国はロシアでの試合について開催地変更を要求している。
ウクライナリーグは中断された。強豪シャフタール・ドネツクは2014年の紛争時にすでにホームスタジアムをドンバス・アレーナからリヴィウ、ハルキウへ移している。多くのブラジル人選手たちはホテルで待機状態だそうだ。
イングランド協会(FA)は、今回の侵攻への抗議表明は自由だと発表。ヨーロッパリーグ(EL)ではウクライナ人選手がTシャツに抗議メッセージを書いて露出したが、主審はイエローカードを出さなかった。政治的なメッセージは警告の対象になるが、今回は例外ということなのだろう。ドイツのシャルケ04は胸スポンサーからガスプロム社を外し、イングランドのマンチェスター・ユナイテッドはアエロ・フロート航空との契約を解消した。
1992年の欧州選手権(EURO)では、ユーゴスラビア代表が国内紛争によって出場を取り消されている。国連の決議を受けての措置で、代表チームは開催地のスウェーデンに到着していたが送り返されることになった。ちなみに、ユーゴスラビアに代わって出場したデンマークがこの大会の優勝国となっている。
ロシアが国連の常任理事国であるため、今回は制裁決議が可決しない。しかし、侵攻への抗議は今後あらゆる試合で行われることになりそうだ。抗議で侵攻が止まるわけではないが、ヨーロッパサッカー界からのロシア企業の撤退、ロシア人選手の移籍機会の喪失などによって、実質的なロシアの締め出しが行われるのかもしれない。
西部謙司
にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。