海外クラブでキャプテンを担う偉大さ シュツットガルト遠藤航が重厚なるリーダーたる所以
ボーフム戦は勝利目前に同点に追いつかれるも最後まで諦めず
試合開始のホイッスルが鳴る直前まで、遠藤がサブリーダーのひとりであるDFヴァルデマール・アントンと何やら会話を交わしている。今の彼に課せられたポジションは4-1-4-1のインサイドハーフだ。かつてはボランチでのプレーにこだわりを見せていたが、今はアンカーでもダブルボランチでも、あるいは攻撃的な役割もまったく厭わない。試合状況によって立ち位置や役回りが変化するマテラッツォ監督の「ポジショナルプレー」の概念下で、遠藤のプレー傾向も多様化しつつある。
前半のシュツットガルトはスムーズにボールを前進させられない所作が目立った。このゲームまでにリーグ戦7試合未勝利というチーム状況を象徴するように、各エリアでノックダウンする症状が見られる。
それでも遠藤の表情には焦りが感じられない。味方のコーナーキック(CK)の時にはあえてフィールドプレーヤーの最後方で構えて様子見している。空中戦に強く、セットプレーから何度もゴールを決めてきた彼が屈強な味方守備陣を敵陣ゴール前へ促す姿からは、チーム全体の自信回復こそが復調の足がかりになるという確信に満ちた意思がにじみ出ている。
先制点は後半11分、シュツットガルトの左CKからオレル・マンガラがヘディングしたボールが相手DFの体に当たってゴールイン。味方の中で最も遅れて歓喜の輪に到達した遠藤が、皆の気を引き締めるようにパンパンと手を叩いている。
前節のバイエルン・ミュンヘン戦で4-2のジャイアントキリングを演じたボーフムが反撃を図る。失点直前に途中出場していた浅野が左サイドを疾駆してシュツットガルト陣内を切り裂く。一点死守が大命題となったことを自覚したマテラッツォ監督は後半28分に伊藤洋輝をピッチへ送り込み、彼を本職ではない左サイドバック(SB)に据えて陣形を5バックへと可変させた。
あと少し、もう少し。アディショナルタイムに入り、場内のボルテージも最高潮に達した刹那、背後から迫る相手を認識できなかったDFコンスタンティノス・マヴロパノスが自陣ペナルティエリア内で相手を倒して痛恨のPKを献上してしまう。土壇場で同点に追いつかれてうなだれる味方を尻目に、果敢に敵陣へ打って出た遠藤が左クロスに反応してジャンプ一番、痛烈なヘディングシュートを打ち込むも、ボールは無情にもバーの上を通過してゲームは終焉した。
島崎英純
1970年生まれ。2001年7月から06年7月までサッカー専門誌『週刊サッカーダイジェスト』編集部に勤務し、5年間、浦和レッズ担当を務めた。06年8月よりフリーライターとして活動を開始。著書に『浦和再生』(講談社)。また、浦和OBの福田正博氏とともにウェブマガジン『浦研プラス』(http://www.targma.jp/urakenplus/)を配信しており、浦和レッズ関連の情報や動画、選手コラムなどを日々更新している。2018年3月より、ドイツに拠点を移してヨーロッパ・サッカーシーンの取材を中心に活動。