海外クラブでキャプテンを担う偉大さ シュツットガルト遠藤航が重厚なるリーダーたる所以
デュエルの強さとスキルの高さはドイツの土壌とマッチ
新型コロナウイルス感染症の流行による行動制限措置はドイツ国内でも州ごとに設けられている。シュツットガルトが属するバーデン・ビュルテンベルクも現在は大規模イベント開催における人数制限を定めており、今回取材したブンデスリーガ第23節のボーフム戦は収容人数の約3分の1にあたる約2万枚のチケット販売に限定されていた。
試合開始前のウォーミングアップを観るのが好きだ。筆者がスタジアム内に到着した時にはアウェーチームのボーフムの選手たちが芝生の状況を確かめていた。その中には日本代表FW浅野拓磨もいたが、彼は以前にこのスタジアムをホームとするシュツットガルトに所属していた選手でもある。
プレッシャーが生じないなかで実行されるプロサッカー選手のスキルには感嘆する。そんななか、遠藤はピッチの横幅を数センチの狂いもなくパスを放っていた。思えばJリーグでプレーしていた時代から、彼のロング、ミドルのパス精度は群を抜いていた。ブンデスリーガで重要視されるのは局面強度の高さ、そしてベーシックスキルの確かさだと思っている。その意味では、遠藤の能力は間違いなくドイツの土壌に合っている。
スタジアムDJが発するホームチームの選手紹介も、ブンデスリーガのゲーム観戦の楽しみの1つだ。ブンデスリーガクラブの大半のスタジアムDJは選手のファーストネームを叫び、それに呼応してサポーターたちがラストネームを唱和する。その声量で人気度が示されるわけで、選手たちも気が気でないかもしれない。
「ヌマー(ナンバー)、ドライ(3)、カピテン(キャプテン)! ワタル!」
「エンドゥー!」
遠藤という名字はドイツ人にとって発音しやすいのかもしれない。想像以上のコールが鳴り響き、この時点で、如何にこの選手が所属クラブのサポーターから信任されているかが分かる。
遠藤は言葉も巧みに駆使する。すでにベルギーでプレーしていた時代に英語でのコミュニケーションに支障がなくなっていた彼は今、少しだけドイツ語を覚えて周囲との関係を築いている。
「いや、本腰を入れて覚えようと思ったら、すぐに習得できると思ってるんですよ。でも、ドイツでは英語も通じるから、今は絶対にドイツ語が必要だと思っていないだけで」
彼がそう言うと、「そうなのかも」と思えてしまう。ニヤリと笑う表情もまた、不敵さとともに達観した風情を醸している。
島崎英純
1970年生まれ。2001年7月から06年7月までサッカー専門誌『週刊サッカーダイジェスト』編集部に勤務し、5年間、浦和レッズ担当を務めた。06年8月よりフリーライターとして活動を開始。著書に『浦和再生』(講談社)。また、浦和OBの福田正博氏とともにウェブマガジン『浦研プラス』(http://www.targma.jp/urakenplus/)を配信しており、浦和レッズ関連の情報や動画、選手コラムなどを日々更新している。2018年3月より、ドイツに拠点を移してヨーロッパ・サッカーシーンの取材を中心に活動。