急変貌のFC東京、開幕戦で鮮烈な“予告編”披露 出遅れと混乱必至の想定をはるかに上回る機能ぶり
【識者コラム】川崎との多摩川クラシコで0-1惜敗、変革を物語るFC東京のデータ
FC東京が新シーズンへ向けて鮮烈な予告編を披露した。
何より雄弁に急変貌を物語るのがデータだ。これまで多摩川クラシコを戦う両チームは、対極の特徴を備えていた。つまり圧倒的にボールを支配する川崎と、カウンターを仕掛けるFC東京で、最近では支配率そのままのスコアで後者が屈辱的な結末を迎えることが多かった。だが唯一金曜日の夜に行われた開幕戦では、FC東京がポゼッション、パスの本数、チャンスの数、枠内を含めたシュート数などで、ことごとく川崎を上回った。唯一手にすることができなかったのが結果だった。
開幕まで1か月の準備期間で、驚きの成果を牽引したFC東京のアルベル・プッチ・オルトネダ新監督は言う。
「連覇中のチャンピオンを相手に、しっかりとゲームを支配できたことに選手たちが感じる誇りは大きい。またロッカールームで涙を流していた選手がいたことも誇りに思う」
実はFC東京の変革には懐疑的だった。これまでもクラブは、ポゼッションとカウンターと2つの志向の間で揺れ動き、どちらもリーグ制覇という大きな目標達成には至らずトーンダウンしている。4年間続いた長谷川健太体制からの切り替えは、むしろ大きな混乱を招く確率のほうが高いと見ていた。
ただし反面FC東京の陣容は、優勝戦線に絡んでも不思議はないほど充実していた。特に大分の天皇杯決勝進出の立役者と言ってもいいエンリケ・トレヴィサンや、守護神ヤクブ・スウォヴィクの加入効果は絶大だし、新しい才能を好むスペイン人の新監督が松木玖生を抜擢してくることも十分に予想できた。
確かに序盤は、川崎が完全に主導権を握った。特に高い位置を取るFC東京の右サイドバック(SB)渡邊凌磨の背後を突き、再三マルシーニョがフリーで駆け抜けたし、速いテンポのパス回しで翻弄し続けた。逆に最終ラインからつなぐ意識が徹底されたFC東京は、エリア内でのトレヴィサン→木本恭生→スウォヴィクと流れるショートパスが危うく自滅を招きかねないシーンもあった。
だが前半18分、そのマルシーニョが決定的なシュートをポストに弾かれたあたりから流れは一変していく。同23分にレアンドロがGKと1対1になったシーンを皮切りに、FC東京は決定機、もしくはそれに近い形を6~7度は演出。結局川崎はセットプレーからレアンドロ・ダミアンが決勝点を奪うが、最後まで主導権を取り戻すことはできなかった。
加部 究
かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。