シュツットガルト伊藤洋輝がスタメン起用され続ける理由 数字では測れない“左足の価値”
【ドイツ発コラム】マテラッツォ監督は伊藤の左足を信頼
ドイツ1部ブンデスリーガ17位と2部リーグ降格圏に沈んでいるシュツットガルトにおいて、DF伊藤洋輝は数少ないポジティブな要素の1つだ。
これまでレギュラーだった元U-21ドイツ代表DFマルクオリバー・ケンプフからポジションを奪取し、試合を重ねるごとに首脳陣からの信頼を積み重ねている。一方の出場機会をなくしたケンプフは冬の移籍市場でヘルタ・ベルリンへと移籍を決意した。
伊藤は今や、チームに欠かせない存在となってきている。代表中断期にスペインのマジョルカ島で合宿をしてきたシュツットガルトは前節フランクフルト戦で4バックへ移行するのではないかという予想が地元紙ではされていて、CBには元U-21ドイツ代表DFウラジミール・アントンとギリシャ代表DFコンスタンティノス・マフロパノスが入り、右サイドバック(SB)が本職のDFパスカル・シュテンツェルがスタメンに復帰し、その代わりに伊藤がベンチスタートになるかもしれないという声が少なからずあったのだ。
だが、蓋を開けたらそれまで3CBの右サイドでマフロパノスが右SBで起用され、伊藤はアントンとともにCBでスタメン出場を果たしていた。
その理由について、試合後の記者会見でストレートにペジェグリーノ・マテラッツォ監督にぶつけてみた。「さまざまな選択肢があるなか、今回のスタメンを決断したのはなぜだろう?」と。
「イトウは素晴らしい選手で、素晴らしい人間でもある。試合のあとに謝ってくれたのだが、こうしたことが彼の性格を表していると思うんだ。とても責任感を持って取り組んでくれている。彼の左足は我々にとっての武器だ。優れた目を持っているので、ダイアゴナルのパス、DFラインの裏へのパスを送ることができる。守備も素晴らしい。我々にとってとても価値のある選手だ。だから、今日はまたスタメンに立っている」
この日、自陣での軽率なパスミスが多かったシュツットガルト守備陣において、伊藤からの展開というのはマテラッツォ監督の言葉通り重要な意味を持っていた。ドイツ紙「ビルト」は伊藤のプレーに下から2番目となる「5点」をつけ、「ビルドアップでのミスパスが多すぎた。1対1の競り合いでの勝率はわずか17%」と酷評していたが、この見解には納得しかねる。
ドイツ誌「キッカー」の統計によると、この日75本のパスのうち16本が味方に届かなかったパスということになる。パス成功率という数字で見たらミスパスが多かったという見方もできるが、本来パスの持つ意味というのは「どのような状況でどこを狙ったパスからどのような展開が生まれたのか」が重要になる。5メートル隣の味方選手にパスを出したのと40メートル先の味方を狙ったパスを同列では語れない。
中野吉之伴
なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。