フランクフルトの豪州代表アタッカー、今冬移籍濃厚→一転主役へ 士気を低下させなかった指揮官のマネジメント術
クラブ退団が有力視されたフルスティッチが2得点と躍動
またこの日はセットプレーの作戦もはまった。同点で迎えた後半開始直後、MFクリストファー・レンツはCKからのボールをペナルティーエリアすぐ外へ送ると、これを後半頭から出場のMFアイディン・フルスティッチがどんぴしゃりのダイレクトボレーでゴールへ沈めたのだ。
「アシスタントコーチが試合中にCKの分析をして、相手がペナルティーエリア外のスペースをケアしていないから、生かせるんじゃないかと提案してきた。一度もトレーニングをしたことはなかったけど、ハーフタイムに選手にそのことを伝えたら、うまくやってくれた」
オーストラリア代表の25歳MFフルスティッチにとってこのゴールが今季初得点。さらに決勝ゴールもマークし、チームを勝利へと導く大活躍を見せたわけだが、ここまで順調だったわけではない。それこそ冬の移籍市場でクラブを離れることが濃厚とさえ見られていた選手だ。
選手は誰だって試合に出たいし、活躍したい。でも誰もが試合に出られるわけでもない。監督には監督のビジョンがある。それでも優れた指揮官というのは、普段なかなか出場機会がもらえない選手であっても、モチベーションを失わせずに取り組ませ続けることができる。
「彼にとってはずっと簡単ではない状況だった。だが、大事な選手というメッセージを送り続けていた。口からだけではなく、私は本気でそう思って、本気でそう伝えていた。何分出れるかを保証することはできないが、大事な存在になると。例えば今日はコスティッチとカマダが欠場ということもあって間違いなくテーマになってくると思っていた。彼のシュートは武器になる。今日は素晴らしいプレーを見せてくれた」
指揮官は試合ごとに準備を進めるし、そのためにどんな選手を、どのように起用すればいいかを考える。ただ長いシーズンではどこかで修正が求められる。特に今はコロナの影響で選手が長期欠場する危険性がこれまで以上に高い。主力選手だけでやりくりするのはやはり困難。それだけに、それぞれの選手がチームのために戦えるようにシーズンを通してマネジメントしていくことはとても重要なことなのだ。
「今日の勝利は僕らにとってすごく大事だった。次のホームでのヴォルフスブルク戦に向けていい結果になったよ」
フルスティッチは翌日のクラブインタビューにそう答えて笑った。シュツットガルト戦の勝利で4位ウニオン・ベルリンまでの勝ち点差は3にまで縮まっている。ここから上位進出へ向けて勝ち点をどれだけ積み重ねていけるか。チームとしての総合力が問われてくるだろう。
(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)
中野吉之伴
なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。