原口元気&遠藤渓太所属のウニオン、なぜ4位大躍進? “1部残留”目標のクラブが変貌した理由
【ドイツ発コラム】タイミングを上手く図った起用法、チーム内にバランスのいい緊張感
ドイツ1部ウニオン・ベルリンが素晴らしい。
20節終了時で来季UEFAチャンピオンズリーグ(CL)出場権を手にできる4位、そしてドイツカップではベスト8へと進出を果たしている。今季はヨーロッパコンファレンスリーグ(ECL)へも参戦したことで、ブンデスリーガ、ドイツカップと合わせて3つの大会を戦うことになったが、決して盤石な経営基盤を持っているわけではないウニオンがそうした過密日程で崩れることなく、ここまで好成績を残しているというのは特筆に値する。
監督のウルス・フィッシャーはタイミングを上手く見計らって主軸選手を休ませたり、ここ最近はこれまで出場機会が少なかった選手を起用したりと、チーム内にバランスのいい緊張感を保たせている。例えば中盤センターでは、日本代表MF原口元気が攻守に秩序立ったプレーで欠かせない戦力として活躍していたが、直近2試合ではベンチスタート。今季怪我で出遅れていたMFグリシャ・プレンメルが代わって起用され、2試合連続ゴールで完全復活をアピールすれば、馴染むのに時間がかかっていたMFレビン・エツトナリやMFケビン・メーバルトが徐々に効果的なプレーを披露し、ポジション争いが過熱している。どの選手も起用された試合で納得のいくパフォーマンスを見せられないと、次のチャンスを手にできない。
そんなウニオンは22年に入っても2勝1分と好発進。しかも前半戦チーム最多となる9ゴールを挙げたエースFWタイオ・アウォニイがナイジェリア代表としてアフリカネーションズカップ出場で離脱しているにもかかわらずだ。
アンドレアス・フォグルサマー、ケビン・ベーレンス、ジェラルド・ベッカーといったFW陣が「このチャンスを逃してなるものか」と猛アピールをしているというのが要因の1つ。そして、どの試合でも得点機を演出できるようになったということが大きい。
ドイツ1部リーグ初チャレンジとなった19-20シーズンのウニオンでは組織立った粘り強い守備こそ高く評価されていたが、攻撃の手数があまりに足らなかったのが問題だった。相手の攻撃を跳ね返せても、ボールをつないで攻撃に移れない。どうすればかいくぐれるのか、やり方を見出せないでいた。だからロングボールで凌ぎ、個人の力で打開するかセットプレーに活路を見出すという選択肢しか正直なかった。
だからこそ、残留を果たしたクラブは次のステップを踏むためにと、オフェンスでボールを引き出せる選手、アタッキングサードで違いを生み出せる選手の補強に勤しんだ。それこそMF遠藤渓太がリストアップされたのは、そこでの戦力として期待されたからであろう。さまざまな選手が獲得されたが、特に元ドイツ代表FWマックス・クルーゼがもたらしたものは大きかった。
クルーゼは自然と相手守備が守りにくいところへポジショニングを取る感覚がとても優れている。味方はボールをカットする時、クリアする時に事前にクルーゼの位置を少なからず確認できていたら、あとはその方向へパスを飛ばせばいい。高い確率でクルーゼがボールを支配下に置き、相手のマークをいなし、味方の攻撃へとつなげてくれるのだ。
そんなクルーゼがピッチにいることで、特にボール奪取後、攻撃へ移る時の精度が格段にあがったという点は見逃せない。それこそ苦し紛れに蹴りだされたと思われたボールの先でも状況を予測して先回りしていたクルーゼがいて、そこでボールを収めてくれたりするのだからありがたい。
一時はそんなクルーゼ頼みだったこともあったが、そうした経験を積んでいくことで、どうすれば自陣からの攻撃をフィニッシュまで持ち込むことができるかをチームとして着実に身に付けることもできるようになった。この2シーズンでオフェンスのクオリティーは確かに上がり、クルーゼ不在でもウニオンの攻撃は機能すると言えるほどの水準となった。
中野吉之伴
なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。