どん底でもパニックにならないアイデンティティー 名門バルサが推し進める再建の道
バルサ再建は時間を要する見込みも、その未来予想図は安定
現在のバルサはクライフ監督就任時に比べれば、はるかに状態はいい。なんと言ってもプレースタイルは完全に理解されている。これだけでもスタートラインが全然違う。バルサのプレースタイルはもはや伝統芸能みたいなもので、これを変えるほうが困難だろう。クライフ監督時の中心選手だったのが、ジョゼップ・グアルディオラ(現マンチェスター・シティ監督)。そのグアルディオラ監督時代の中心がシャビ。そしてシャビはペップ以上のクライフ主義者だと言われている。隔世遺伝みたいなものなのか、直接指導を受けたわけでないのに、考え方はよりクライフに近い感じがするのが不思議だ。
ともあれ、シャビ監督のバルサは再建へ向けて奮闘中である。本当にバルサ・スタイルの教科書どおりにプレーしていて、なんだかバルサ化を掲げて頑張っているほかのチームみたいに見えてしまう。それだけにいろいろ粗も見えてしまうわけだが、若い選手がかなり使われるようになった。ペドリ、ガビ、ニコといった若手はいかにもカンテラ育ちという雰囲気(ペドリは違うけど一番カンテラーノっぽい)。これがほかのビッグクラブならスターを獲得して早期の再建を目指すのだろうが、バルサのサッカーをやるには、それに最適化した選手が必要という事情があるのでそうはいかない。だから時間はかかりそうではある。
ただ、方向性は間違えるはずもなく先も見ている。どん底でもパニックにならないのはバルサならではであり、なかなか真似のできることではなく、なぜか羨ましい気さえする。
(西部謙司 / Kenji Nishibe)
西部謙司
にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。