新生・鹿島はなぜブラジル→欧州路線へ? 「もっとやるべきことがあったんじゃないか」…最多20冠の“常勝軍団”が抱いた危機感
指導陣とともに、強化スタッフの体制も様変わり
とはいえ、ヨーロッパテイストの導入は今に始まったことではない。2020年に就任したザーゴ元監督はブラジル出身ながらヨーロッパでの選手経験や指導歴もあり、モダンフットボールの戦術に精通していたことから白羽の矢が立てられた。最新テクノロジーや練習の映像を駆使し、個々のプレーを可視化する指導スタイルはこれまでの鹿島には見られないものだった。
ザーゴ元監督が特に学んでいたのは、エナジードリンクメーカーのレッドブルグループが全面的にバックアップして打ち出されたスピーディーで、インテンシティーの高い戦術と、そのトレーニングメソッドだ。それはアンチポゼッションと言われるが、ザーゴ元監督が目指したのは、あくまでもボールを大事にするスタイル。自身のルーツであるブラジルとヨーロッパをブレンドしたサッカーと言えるかもしれない。だが、新たな戦術の浸透が進まず、結果も伴わず、わずか1年と数か月で、解任に追い込まれてしまった。
こうした試行錯誤を経ての、ヴァイラー監督の就任でもある。新型コロナウイルスの入国規制のため、いまだに来日できずにいるが、1月22日の新体制会見ではオンラインを通じ、こうメッセージを送っていた。
「選手個々の特徴を生かしたエンターテイメント性のあるサッカーを展開したい。シーズンの最後に皆で笑顔になれたらと思っている」
指導陣とともに、強化スタッフの体制も様変わりした。長年、チーム編成の最高責任者として手腕を発揮してきた鈴木満フットボールダイレクター(FD)が勇退し、後任である吉岡宗重フットボールグループプロチームマネージャーにバトンが渡された。クラブレジェンドのジーコテクニカルディレクター(TD)もその職を退き、クラブアドバイザーに就任。今後はチーム強化のみならず、さまざまな面から鹿島を後押しする。
かつて鈴木前FDが発したこの言葉が忘れられない。
「タイトルを獲ってももっと別のやり方があったんじゃないか、もっとやるべきことがあったんじゃないか。いつもそう考えている。これで安泰と思ったことなど一度もない」
危機感を原動力に変えながら生きながらえてきた鹿島。再びJリーグの主役に躍り出られるか。今季の関心事の1つといっていいだろう。
(小室 功 / Isao Komuro)