“静学”10番・古川陽介、「武器を見失った」中学時代からなぜ這い上がれたのか?
ボールを持ちたがるドリブラーではなく、ドリブルを生かせる賢い選手
第100回全国高校サッカー選手権で、静岡学園(静岡)の10番を背負ったMF古川陽介が見せたプレーは大きな話題となった。緩急自在のドリブルで次々と相手をかわし、フィニッシュへと持ち込むその姿で、多くの観客を魅了。高校卒業後、ジュビロ磐田でプロ生活をスタートさせる逸材は、一体どんな選手なのか。これまでの歩みを振り返る。
鮮やかなドリブルで1人、2人と軽やかにかわしていく。古川は観客からすると「あの選手はうまい」と一目で分かるようなテクニカルな選手だ。右利きだが、左足も難なく扱える。両足のあらゆる箇所を使って持ち出したり、引き込んだり、股を抜いたりと相手を翻弄するドリブルを試合中に何度も披露する。
選手権で古川は、2つのゴールシーンで大きなインパクトを残した。大会でまず、観る者の度肝を抜いたのが1回戦・徳島商(徳島)戦の4点目だ。ペナルティーエリア(PA)外左でボールを受けると、DF3人に囲まれながらも細かいボールタッチで翻弄。4人目の相手が寄せて来たのを見ると、中央でフリーだったMF玄理吾(徳島ヴォルティス加入)にパスを出し、すぐさまPA内のスペースに走り込む。
そこへ玄からのスルーパスが通った。ここで古川はシュートフェイントでブロックに来たDFを足裏で切り返しながらかわし、そのまま右足のトゥーキックでゴールに沈める圧巻のフィニッシュを見せつけた。
3回戦の宮崎日大戦(宮崎)で見せたゴールも衝撃的だった。左サイドでボールを受けると、ここでも複数人に囲まれながらも狭いスペースを縫うようにして抜き去り、加速して1人を置き去りに。ゴール前でもブロックに来たDFを鋭い切り返しでかわしてから左足でゴール右隅に突き刺した。
「試合の流れを止めないプレーを考えています。流れの中で仕掛けることを大事にしていて、そのなかでボランチにつければ捌いてくれるし、周りを信頼して一旦預けてからゴールに近い位置でつけることも考えるようになりました」
徳島商戦のゴールはまさにその形だった。ただ古川はボールを持ちたがるドリブラーではなく、冷静に周りの状況を見ながら武器であるドリブルを生かせる賢い選手だ。
「小学校時代はドリブルばかりやって、中学時代は逆にパス中心のサッカーで少し自分の武器を見失ったんです。でも、静学に来て改めて自分の武器はドリブルにあると思い出させてくれたんです」
出身地の滋賀県にあるアズールFCから京都サンガF.C.U-15に進むが、思うように試合に絡めずにU-18昇格を逃した。その後、古川は個人技を伸ばせられる静岡学園に進み、1年時から「失敗を恐れるな、どんどん仕掛けろ」と言うコーチやスタッフの声に背中を押されて、これまで培って来た技術をとことん発揮するようになった。
「3年間で僕は自分の武器であるドリブルを磨くことができました。ストロングがある選手は絶対に目立つので、かなり意識をしました」
高校3年になり、大島僚太(川崎フロンターレ)や旗手怜央(セルティック)、松村優太(鹿島アントラーズ)らが背負った背番号10を託されると、インターハイベスト4進出に貢献するなど、チームの中心的な存在に。そして選手権でも躍動感あふれるプレーを披露。準々決勝で関東第一(東京B)にPKで敗れたが、相当なインパクトを残した。
今春の卒業後は、プロとしての新たなステージに立つ。「素直にジュビロがJ1に上がったのは嬉しいですし、レベルが上がる分、気を引き締めないといけない。競争が去年よりも激しくなると思うので、そこは覚悟を持って臨みたい」と、J1という大舞台に臨む選手の一員としてすでに気持ちは切り替わっている。プロでもあの躍動感と意外性溢れるプレーを魅せられるように、古川は自分の武器を磨く旅を続ける。
(FOOTBALL ZONE編集部)