青森山田・松木玖生は同じ舞台を3度も繰り返す必要があったのか 日本の異例な育成基準が生む“弊害”

青森山田を牽引した松木玖生【写真:小林 靖】
青森山田を牽引した松木玖生【写真:小林 靖】

【識者コラム】無理をさせず健やかな成長を促す国際的な育成基準とは離れた日本の現状

 100周年を迎えた全国高校選手権は、青森山田が圧倒的な強さを見せて優勝した。インターハイ、プレミアリーグEASTと合わせて3冠の達成である。

 だがプレミアリーグEASTの10チーム中7チームはJクラブのユースだ。よりレベルの高いプレミアリーグを勝ち抜いたチームが、わざわざインターハイや選手権で必然の証明を繰り返す。果たしてこれが育成年代に適したカレンダーだと言えるのだろうか。またすでに1年生でチームの主力として決勝でプレーしていた松木玖生は、同じ舞台を3度も繰り返す必要があったのだろうか。同じような年代で次々にステップアップを果たしていった久保建英のキャリアと比べれば一目瞭然だ。世界の常識に照らし合わせれば、16歳で逸材と注目された選手が2年後も同じカテゴリーでプレーしているのは、極めて異例と言える。

 もちろん青森山田の3冠は快挙だ。だが育成年代の現場で最優先させるべきなのは、チームの勝利以上に目の前の素材をどこまで伸ばしていけるかのビジョンであり、それに即した道筋や環境の見極めでもある。かつてガンバ大阪は、当時中学2年生の宇佐美貴史を主将に抜擢して全日本ユース(U-15)選手権を制すると、翌年はユースに昇格した宇佐美不在で連覇を果たした。中学3年生の宇佐美をジュニアユース(U-15)で起用すれば、青森山田のように圧倒的な強さを誇示できたはずだが、クラブは宇佐美を適性カテゴリーに移してほかの選手たちに実戦を積ませて成長を促す選択をした。それはJアカデミーならではの施策かもしれないが、逆に育成の世界基準とも言える。

 ところがJFA(日本サッカー協会)は、育成過程でチームの成績を過度に際立たせる大会を創設し、プロの時代が到来してもそれを放置している。プレミアリーグと選手権を比較すれば、質は前者が上回っても注目度はケタ違いで後者が圧倒する。部員200人を超えるような人気私立高校が、ある程度レギュラーを固定して勝利に邁進する。選手権はそれを誘発する、世界に例を見ない巨大なお祭りと化している。3冠が際立つ一方で、3つも全国大会があるなら出場する選手を分ける発案施策が出てこないほうが不自然だ。

 JFAはプレミア以下のリーグ戦を整備し文化の構築を促そうとしたが、結局ノックアウト方式の選手権優先の流れは変わっていないし、むしろリーグ戦を導入したのに旧来のカレンダーが引き継がれているので、強豪校の主力選手たちに異常な負担がかかっている。目先の結果にとらわれず、無理をさせずに健やかな成長を促す国際的な育成基準とは、明らかにかけ離れた現状がある。

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加部 究

かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。

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