独走態勢のマンCに戦術的な欠点なし 攻守を支える「ポケットへの侵入」と「ハーフバック制」
【識者コラム】マンCがプレミア首位を快走する“カラクリ”
1月15日に行われたプレミアリーグ第22節、マンチェスター・シティとチェルシーの1、2位対決はシティが1-0で勝利した。これでチェルシーとの勝ち点差は13ポイントに開き、すでに独走態勢に入っている。
点差は最少とはいえ、シティが1枚上の貫録を示していた。戦術的に何も足りないものがない。よほどのことがなれば、このまま優勝するはずだ。
GKエデルソンも含めたビルドアップは決して急がず、確実に相手のファーストラインを通過していく。ライン間に縦パスを通すには、その前に相手のファーストラインに門を作る必要があり、そのためシティは機が熟するまで待つ。FWとMFの間につなぐと、あとは速い。相手が必然的に素早く寄せてくるので、ワンタッチパスでいなしてしまえば、相手のディフェンスラインを裸にできる。そうなれば相手は後退しかなく、あちこちに突けるスペースができている。まず、この緩急が見事だった。
そうかと思えば、DFが後方でキープしている時に、前線が相手ディフェンスラインの裏を突くランも再三見せていた。直接ロングパスを通す攻め込みも手の内に入っていて、これがあるから相手はそんなにコンパクトにできない。
ライン間に侵入できない時は、サイドチェンジを使って相手の守備ブロック自体を押し下げる。ここではラヒーム・スターリング、ジャック・グリーリッシュ、フィル・フォーデン、リヤド・マフレズのウイングプレーヤーのドリブルが効いてくる。得意の「ポケット」への侵入も定番だ。
唯一の弱点はゴールゲッターがいないこと。ここまでチーム最多得点者はスターリングとベルナルド・シルバの7ゴールだが、プレミアの得点ランキング11位にすぎない。ただ、特定の選手が得点していないだけでチームとしての54ゴールは最多となっている。
センターフォワード(CF)はほとんど日替わり。そのかわり、クロスボールに対しては常に4人がペナルティーエリア内へ入っていく。速くて際どいクロスが誰かに届く確率を上げるとともに、相手がクリアしきれずにこぼれたボールを拾う得点が多い。量産型のストライカーがいないための一種の人海戦術なのだろうが、これが非常に上手く機能しているのだ。
西部謙司
にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。