【名将秘話】「どっちなんだ?」当たり前の質問に怒り出したオシム 「高原や俊輔が疲れていて、負けても責められるのは監督だ」

ずっしりと思い空気、質問に苛立つオシム

「移動と大会運営についてどう思いますか?」
「重要な質問ではない」
「こんな時間に会見をするのも初めてだと思いますが……」
「いえ、ありますよ」

 何だか白々しい雰囲気で記者会見は始まった。ハノイのだだっ広いホテルと違って、スタジアム内の小ぢんまりとした部屋。対戦相手の韓国の記者はいなかった。日本人の記者たちもまだパレンバンに到着していない人々、すでに帰国した人もいて、これまでよりずっと数が少ない。皆、疲れていた。
 
「今日、ここに来てくださった皆さんに感謝します。もし、我々が優勝する、優勝しなければならないとお考えなら、皆さんはこの場にはいないはずですから」

 オシム監督は感謝を述べ、唐突に「敗因探しなら責任は私にあります」と付け加えた。ふと横を見ると、松木安太郎さんや堀池巧さんが、にらみつけるような目を前方に向けているのが見えた。「敗因探し」うんぬんは、敏感なオシムが雰囲気を察したからかもしれない。もう冒頭からずっしりと空気が重い。

「3位決定戦は大事な試合ではありますが、選手を試す機会でもある。どの程度、選手を代えますか?」

 この質問がこの日の会見のポイントだ。日本は6試合を酷暑の中でプレーしている。今回は移動もあった。前日練習は夜中だ。選手を代える可能性は十分ある。報道側としては大事な質問で、ある意味当たり前の質問でもあった。ところが、これにオシムが怒り出した。

「3位決定戦を大事と考えるのか、そうでないのか。どっちなんだ?」

 不機嫌に反問を投げた後、「非常に大事だ」と自らの問いに答え、

「では、誰がプレーしたらいいのか。高原(直泰)や(中村)俊輔が疲れていて、それで試合に負けても責められるのは監督だ。若い選手を出しても同じだ。いつでも勝てる方法があるなら聞きたい。結局、私に何を言わせようとしているのか分からない質問だ」

 いや、何を言いたいのか分からないはあなたです。質問はシンプルなのだ。先発選手を代えるのか代えないのか。3位決定戦という微妙な試合、しかし相手は韓国、選手の疲労も考慮しなければいけない、難しい判断だけれどもどうしますか? と聞いている。ヘンな質問ではない。なのに、オシム監督は明らかに苛立っている。あまりにも余裕がない。

<まだ決めていないのか?>

 そう思った。

※「vol.2」へ続く

(西部謙司 / Kenji Nishibe)

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西部謙司

にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。

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