“3枚の絵”に見る風間八宏氏の指導理論 「止める・蹴る」以上のインパクトに膨らむ期待

身体能力で劣ってもDFを出し抜いてシュートが打つために必要な「目を揃える」

 では、1枚目に戻ってみる。パスの出し手がFWへパスを送ると決めるのはこの1枚目の絵によるわけだが、そこに見えているのはFWとDFの動きの方向性が同じで、マークされている状態である。この、まだ何も起こっていないように見える絵から、出し手と受け手の両方が2枚目、ひいては3枚目の絵を描けていなければならないことになるわけだ。

 つまり、「外す」はパスが到達した時点での状態であって、そのパスを出す判断をする時点ではまだFWがDFを外していない。いったい何をもって「外れる」と分かるのか。

 風間さんは「味方ではなく相手を見ろ」と言う。指導DVDなどを見ると、確かにDFを見ることで「外れる」と分かる時もある。ただし、そうではないことも多い。風間さんは「今だ」「ほら外れた」とDVDの中で言っているのだが、それがよく分からないケースも多々あるのだ。分かる時でも「何となく」だったり、ブレていてぼんやりと見えている感じだったりする。
 
 風間さんはパスの出し手と受け手の「目を揃えろ」とよく言う。同じ「絵」を認識できていること、それによってタイミングを合わせられること。それが出来れば、身体能力で勝てていなくてもDFを出し抜いてシュートが打てる。ただ、この「目を揃える」はそう簡単ではないと思う。指導するコーチにしても「絵」が見えていなければならない。一発で見抜ける目の人と、ブレブレにしか見えない人、まったく見えない人もいるだろう。「止める・蹴る」よりはるかに可視化しにくくハードルは高い。しかし、大勢の目が揃うようになれば、「止める・蹴る」以上のインパクトを与えられるのではないかという期待はある。

(西部謙司 / Kenji Nishibe)

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西部謙司

にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。

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