「サッカーをする」とは何か? 躍進フライブルクの名監督に会見で直撃――「それなら負けたほうがいい」と語るワケ
【ドイツ発コラム】今季ブンデスリーガで3位と躍進のフライブルクが話題
例年どおりバイエルン・ミュンヘンが首位で折り返したブンデスリーガ前半戦で最もセンセーショナルな話題と言えば、3位につけているフライブルクの躍進だろう。17節ではホームに強豪レバークーゼンを迎えたが、見事に2-1で勝利を挙げた。
フライブルクが前半33分にMFビンツェンツォ・グリフォが冷静なPKで先制に成功すると、レバークーゼンも前半アディショナルタイムにCKから最後はMFチャルレス・アランギスが流し込んで同点に追い付く。
後半は一進一退の攻防が続き、両チームともシュートシーンまで持ち込めない。細かいパス交換から丁寧に崩していこうとフライブルクの攻撃に、記者席の前に座っていた子供たちが「もー--! シュートー---!」と叫び出す。彼らの思いが通じたのだろうか。後半38分、右サイドのFWエルメディン・デミロビッチがゴール前にクロスを送ると、キャッチしようとしたレバークーゼンGKルーカス・ラデツキーの鼻先に疾風のごとく飛び込んだFWケビン・シャーデがつま先で合わせたのだ。
新型コロナウィルス拡大抑制対策でフライブルクのあるバーデンビュルテンビュルク州では750人の観客しか許可されていない。でも選手、監督、コーチ、スタッフ、そして彼らファンとで作り上げた喜びの輪がスタジアムを輝かせていた。
フライブルク躍進にはさまざまな要因があるが、最大の要因がクリスティアン・シュトライヒ監督の存在であることは誰もが認めるところだ。
観客が少ないのでスタジアムにいると監督の声がダイレクトに聞こえてくる。秩序だった守備陣形からタイミングよくプレスをかけて相手のミスを誘うと「genauso!(それだ!)」と叫び、守備時にMFローランド・シャライやMFチョン・ウヨンがポジションに戻ろうとする動きが遅くなると「Sofort wieder zum Einsatz!(すぐに次のプレーだ!)」と要求。相手のプレスを受けながらもドイツ代表DFニコ・シュロッターベックが落ち着いてボールを逆サイドに展開すると「Nico,so ist es gut!(ニコ、ナイスプレーだ!)」といいねポーズとともに褒める。
そして、ことあるごとに聞こえてくるのが「Fussball spielen!!」という言葉。「サッカーをしろよ!」という意味だ。「サッカー」をする。それがシュトライヒにとっては何よりも大切なことなのだ。
中野吉之伴
なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。