際立つ「弱肉強食の論理」 Jリーグに近づく過渡期と重要視される「ステータス」
下位のカテゴリーのチームが強化の継続性を図るのはますます困難に
世界全体と日本国内のサッカーシーンは、フラクタルな構図になっている。欧州に誰もが憧れる4大リーグが存在するように、日本もJ1とJ2、さらにはJ1内でも序列ができ上がりつつある。例えば優勝した浦和は、戦力補強のバランスの良さが光った。フランスから帰国した酒井宏樹やJ1屈指のアタッカー江坂任など大物獲得が目立つ一方で、功を奏したのはJ2で活躍した小泉佳穂、明本考浩、平野佑一らの補強だった。ただし立場を変えれば、彼らが屋台骨の役割を果たして来たFC琉球、栃木SC、水戸ホーリーホックにとってはチームの根幹を揺るがす移籍だったはずである。
結局、日本の若い有望株が矢継ぎ早に海外へ飛び出していくのを避けられないのと同じように、下位のカテゴリーのチームが強化の継続性を図るのは、ますます難しくなる。
実際J1王者の川崎も、有望株を引き抜いて来られる立場であると同時に「被害者」でもある。特に三笘薫や守田英正は大卒でもターゲットになり、旗手怜央にも移籍の噂が出るなど、育成上手が痛し痒しの感もある。ただし、それでも川崎のように強くて上手くなるチームは国内では羨望の的だから、欧州移籍組の穴を埋めるのは追いつかなくても上位戦線を維持していく展望は開けてくる。
しかし、降格ラインを争うようなクラブがJ1というステータスを失えば、途端に主力選手たちは引き抜きの危険にさらされるし、しかも、このサイクルの速度は高まっている。こうして弱肉強食の論理が際立ち、選手の移動が加速しているのは、プロが熟成して来た証左でもある。
長く団子レースが続いて来たJリーグだが、過渡期は確実に近づいている。ここ数年でステータスを落とせば、致命傷になる大きなリスクが待っている可能性がある。
(加部 究 / Kiwamu Kabe)
加部 究
かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。