マンC戦で衝撃7失点 リーズが突きつけられた“マンツーマン戦術”の限界 理屈は簡単、実行は難しい
【識者コラム】1970年代まで標準的な守備戦術だったマンツーマンの利点
プレミアリーグ第17節、マンチェスター・シティが7-0でリーズ・ユナイテッドに圧勝した。リーズは前節でチェルシーに敗れたとはいえ3-2。シティ戦の試合結果を先に知ってしまったので7失点は意外に思えたのだが、試合内容からするとそれも納得だった。
大敗の要因としてリーズのマンツーマンディフェンスが挙げられる。誤解されたくないので先に書いておくが、マンツーマンだからダメだとは思わない。実際、キックオフ直後のシティは少々やりにくそうだった。
1970年代まで標準的な守備戦術だったマンツーマンだが、現在ではゾーンが主流になっていてマンツーマンで守るチームはほとんどない。従って攻撃する側もゾーンの弱点をいかに突いていくかに注力している。ゾーンの隙間にパスを入れる、2人が並んだ「門」の間へボールを通す、サイドチェンジを有効に使うなど、ゾーンディフェンスを崩す攻め方に慣れているわけだ。
そのため相手がマンツーマンの守備だと、いつもと勝手が違うところが出てくる。ゾーンの隙間は存在しないし、いつもより相手が寄せてくるタイミングも早い。ボールを保持していても窮屈で、いつもよりミスをしやすい状態に置かれる。ポジショニングの変化による可変もマンツーマンには効果がない。
マンツーマンの利点は守備の強度を上げやすいところだ。守備の原則としてチャレンジ&カバーがあるが、上手いチームに対して忠実にチャレンジ&カバーを繰り返してもボールを奪うのは難しい。相手を侵入させないことはできるかもしれないが、ボールを奪う守備にはならない。どこかでチャレンジ&チャレンジに移行しないかぎり、好きなようにパスを回されてしまう。その点、マンツーマンはチャレンジ&チャレンジに移行しやすい、というかマークしているかぎり、すべてチャレンジ状態なので守備の強度は上がるわけだ。
ゾーンよりも運用がシンプルなのも利点かもしれない。例えば、相手がワンツーで突破しようとしてきても、人に付いていけばいいので迷いはない。ゾーンの場合、ボールホルダーに対峙している選手が、相手がパスを出した瞬間にカバーリングポジションへ移動するわけだが、その時にどちらへ動くかで通常の場合と方向が逆になる。通常はパスを出された方向へ一歩踏み出し、そこからカバーリングポジションへ素早く移動する。しかし、ワンツーの場合はパスを出された方向とは逆に動く。つまり、パスを出された瞬間にワンツーだと判断できなければいけない。オーバーラップ、インナーラップも同様で、相手が何をしているのかでその都度判断を変えるのだが、マンツーマンにはその手の面倒くささが一切ない。
西部謙司
にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。