「強度」vs「ポジショナル・プレー」 バルサとバイエルンの激突で浮かんだスタイルの潮流
ポジショナル・プレーも相手の速度が上回れば優位性は減少
ジョゼップ・グアルディオラ監督が率いた衝撃的なバルサは「ポジショナル・プレー」の先駆けと言っていいだろう。プレッシングもそうだったが、だいたい10年ぐらい経過すると普通の戦術として消化される。ポジショナル・プレーも今やそうなりつつあるわけで、そこでの優位性はかなり目減りしていると考えられる。
ポジショナル・プレーをひと言で説明するのは難しいが、選手の頭の中に「地図」をインストールしたと思えば分かりやすいかもしれない。カーナビみたいに、ボールと自分と味方の位置情報を把握できるので、それに対して相手がどう対応するかで最適なルートを選択しやすい。サッカーのナビゲーション・システムだ。
地図なので、図面と相性がいい。作戦盤などで説明しやすい。ただ、作戦盤には「時間」が入っていない。作戦盤ではフリーになっているはずなのに、実際のフィールドでは相手のプレッシャーに余裕をなくしたりする。正しい位置にいても、それを上回る速度が相手にあれば、攻撃でも守備でも作戦盤の上にあったはずの優位性など消し飛んでしまうのだ。
バルセロナ対バイエルンで起こっていたのは、そういうことだと思う。
バイエルンとリバプールは、プレーエリアを特に狭めたりしなくても全面で高強度のプレーができる例外的なチームだ。アヤックスは守備ベースがマンツーマンなので、やはり強度はかなりのものがあった。中途半端なポジショナル・プレーなど、ひと呑みにしてしまう。
ただ、かつてヨハン・クライフが言っていたように「人はボールより速く動けない」ので、そのうちパススピードやテンポを上げた精度勢の巻き返しもあるのだろう。
(西部謙司 / Kenji Nishibe)
西部謙司
にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。