東京を代表する2クラブの伝統 味スタで見えた「フィジカル」と「テクニック」の対照的な歴史
【識者コラム】東京のクラブ2つの連戦で見えた“違い”
2021年シーズンのJリーグ最終節は、2日間続けて味の素スタジアムで取材をした。
J1最終日はFC東京、一方J2最終日は東京ヴェルディのホームゲームを観たのだが、前者は長谷川健太監督が辞任し、森下申一監督が引き継いでから短期間で丁寧にボールをつなげていく方向へ転換を図った。森下体制は今季限りなので、当然来年以降を睨んだ試みだと推測できる。
しかし、同じスタジアムで連日戦った2つの東京のクラブで、ボールを保持してしっかりとゲームを支配していくスタイルを体現していたのは、むしろJ2の東京Vのほうだった。
もちろん対戦相手の問題もある。FC東京の相手は、J1で初めて残留を果たして過去最高の8位という成績を収めた福岡だった。福岡の健闘は今年最大のサプライズでもあり、当然コンセプトが明確だったからこその成果だった。つまり完成形に近い福岡に対し、森下体制に移行してわずか3戦目のFC東京は、決定機こそ少なかったが後半は完全に主導権を握って戦い抜いた。限られた時間で意図した狙いは見えたし、適応力は悪くないかもしれない。
それに対し、東京Vの相手は結果的にはJ3に降格することになったSC相模原だった。ただし、相模原は勝てばJ2残留を手繰り寄せられる状況だった。究極のモチベーションで臨んだはずの相手に対し、東京Vは序盤からまるでペナルティーエリア内の攻撃練習をしているかにボールを動かし、逆にミドルレンジからMF新井瑞希がスーパーショットで均衡を破る。勝利が必要な相模原があまりに守備的なスタートだったこともあるが、とりわけ狭いスペースでボールを受けて次の展開へと繋げていく技術には大きな違いがあり、終わってみればホームチームが3-0で圧倒した。
加部 究
かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。