ステージ優勝を逃し川崎の“無冠の呪縛”は継続 それでも中村憲剛の目に失意が宿らぬ理由
中村が実感する川崎の進化
試合が後半に入ると、この日一番のハイライトが訪れた。後半11分、右サイドでボールを受けた中村が、ドリブルでボックス内に侵入。3人のマークがついたなかで左足を一閃すると、ボールはゴール左隅に突き刺さり、貴重な追加点となるスーパーゴールが生まれた。「前線の選手がマークを釣ってくれたおかげ」と謙虚に語ったが、負傷明けとなる復帰戦で1ゴール1アシストをマークし、圧倒的な存在感を放って2-0の勝利に貢献した。
それでも、同時刻に行われたゲームで首位の鹿島が福岡に勝利したことで、ファーストステージ優勝は夢物語に終わった。あと一歩のところで、またも悲願の初タイトルがその手からこぼれ落ちた。「今年のチームは勝負強い」と、今季のチームの完成度については特に自信を示してきただけに、悔やまれる2位でのフィニッシュとなった。しかし、その表情に失意の色はない。
「勝ち点を38も得ることができて、最も重要な年間勝ち点1位を狙える立場にあることを喜ぶべきなのも事実で、ファーストステージの優勝を鹿島に譲ってしまったことを悔むべきなのも事実。でも、今年は若手も中堅組もグッと成長して、僕と嘉人が常に声を張り上げなくてはいけない状況はなくなった。新戦力組も馴染んできている。今年は今まで以上にそれを実感する」
ファーストステージでの黒星はわずか1つ。2戦連続の引き分けもなく、失点も例年に比べて格段に少なくなった。優勝こそ果たせなかったが、それら数字で示された事実こそが川崎が明確に勝負強くなった証だ。初タイトルを逃した主将の目に宿っていたのは、失意でも後悔でもなく、最後に王者となるための並々ならぬ闘志。中村は最後に一言、「これからですよ。まだ、半分ですから」と口にして、颯爽とスタジアムを後にした。
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城福達也●文 text by Tatsuya Jofuku
ゲッティイメージズ●写真 photo by Getty Images