ドイツで話題の“美しいスポーツマンシップ” 敵将も感動「正直でフェア」…選手の紳士的行為に実感したスポーツの力

ファンに愛されるフライブルクのシュトライヒ監督、機知に富んだ発言も注目

 フライブルク監督のクリスティアン・シュトライヒは、ブンデスリーガですでに11シーズン同クラブで監督を務めている。彼の口から発せられるコメントはいつでも謙虚で、ストレートで、機知に富んでいて、社会情勢への理解がある。

 だからサッカーの話だけではなく、何か社会でディスカッションされているテーマがあったら記者会見で尋ねられるし、それに対していつでも丁寧に自分の意見を口にする。ダメなことははっきりダメだという。そして守るべき存在は大事に守らなければならないとかばう。フライブルクファンだけではなく、ドイツのサッカーファンはそんなシュトライヒの言葉が大好きなのだ。いくつかご紹介したい。

「誰がどこから来たかが重要ではない。大事なのはその人がどんな人であるかだ」
「フライブルクでは育つのがほかより早いのかもしれない。それはこの土地に秘密がある」
「指導者だからと選手に強制したらどうなるだろうか。ある選手は神に祈りをささげることで力をみなぎらせるし、ある選手はゆっくりとお風呂に入ることでパフォーマンスを発揮する。でもそれをしたくない選手に強要したら、ピッチ上でいいプレーなどできるはずもないではないか」
「財布のひもを緩めて補強策を進めるクラブとは違うやり方をしようとする。それが私たちのモチベーションだ」

 フランクフルト戦では終盤オフェンシブな選手をどんどん投入し、最後まで可能性を手繰り寄せようとしていた。記者会見でドイツ人記者に「守備バランスが崩れることを恐れたりしなかったのだろうか?」と聞かれたシュトライヒは静かな声で落ち着いて諭すように語った。

「可能な限りオフェンシブなプレーをするのがフライブルクなのだ。相手がいいチームならば、失点することもありえる。試合ごとにどんな可能性があるかをいつでも考える。だが我々はどこが相手でも、ただ守ることだけを考えるサッカーはしない。そうしたサッカーをしてきていないんだ。相手陣内でどんなサッカーをするかを大事に育成からやってきている。いま2連敗となったが、それもブンデスリーガでは普通のことだ。バイエルンも金曜日にアウグスブルクに負けた。今度の対戦相手となるボーフムだってレバークーゼン相手に見せたプレーはとても素晴らしく、印象的だった」

 プロスポーツの世界はもちろん結果が求められる。勝利するためにあらゆる準備をし、たゆみなく努力をする。さまざまな駆け引きもある。ネガティブな感情をぶつけ合うこともある。でも、スポーツの美しさ、かけがえのなさを共有できる根っこのところは、いつでも大事にしたいではないか。

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中野吉之伴

なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。

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