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モウリーニョの罠にはまったベンゲル 今季優勝にかけるモウリーニョの執念
サー・アレックス勇退後のイングランドで最強の闘将となったモウリーニョ
この年、アーセナルとの対戦成績は2004年12月4日に行われたアウェイが2-2。2005年4月20日のホームが1-1で、2戦とも両軍ともにゴールを奪ったドローで、直接対決は決着がつかなかった。
しかし2季目のモウリーニョ・チェルシーは、2005年8月21日に行われたアーセナルとのホーム戦を1-0で辛勝すると、2005年12月18日のアウェイも2-0で制して2連勝。ポルトガル人指揮官と経営陣との軋轢が表面化した3年目は、ホーム、アウェイ戦ともに1-1ドローで終ったが、それでも第一次モウリーニョ政権中でアーセナルは1度もチェルシーに勝つことができなかった。
アーセナルの勝てない伝統は、昨季モウリーニョが復帰して、さらに続いくことになった。2013年12月3日のポルトガル人闘将復帰初戦こそ0-0で分けたものの、その次の2014年3月22日の試合はご存知の通り6-0、そして今回10月5日の2-0で大敗、完敗の2連敗。通算成績はモウリーニョ・チェルシーの4勝5分。さらにいうと、ベンゲル・アーセナルは、スタンフォード・ブリッジ5戦でわずか1ゴールしか記録していない。
これだけ対戦成績の分が悪く、その上『失敗のスペシャリスト』と呼ばれ、前回の直接対決で6-0大敗を喫し、そして試合当日、キックオフ直後に不必要とも思えるスローイン介入までされて、冷静なイメージのベンゲルもさすがにかっと熱くなってしまったわけだ。
それにしても、今回のチェルシー対アーセナルを見て、プレミアの強豪対決は本当の“総力戦”なのであると、改めて思った。
選手のコンディションをビッグマッチに向けて最高潮に仕上げ、その上相手を研究して最良の戦術を選択する。しかしモウリーニョはそれだけでは飽き足らず、敵将をいら立たせ、精神的にも追い込んだ。
試合後、モウリーニョへの行為を後悔しているかとたずねられたベンゲルは、「NO」と一言。しばらく間を置いてから、「倒されたサンチェスの様子を見に行こうとしたら、さえぎる者がいた。それだけだ」と話し、両手で敵将の胸を突いた苦しい言い訳を披露した。
もちろん最終的にはモウリーニョを突き押したベンゲルが悪いのだが、ベンゲルが手を出した瞬間、モウリーニョはどう思ったことだろう。
相手の、しかも名将と呼ばれる監督が我を忘れて自分を突き飛ばす。それこそ待ってましたという瞬間ではなかったのか。
勝敗が読めないビッグクラブ同士の対決で、相手監督が感情的になってくれれば、選手も動揺するし、様々な判断ミスも期待できる。
昨季の低姿勢とは打って変わり、こうしてなり振りかまわず相手を揺さぶるモウリーニョを見ると、今季のチェルシーなら優勝できると自信を深めているのが伝わってくる。
ジエゴ・コスタの加入で欲しかった決定力を手に入れ、ファブリガスの加入でランパードの穴が空かず、アザール、オスカルが本格化の兆しを見せるチームを率い、復帰2年目にしてサー・アレックス勇退後のイングランドで最強の闘将となったモウリーニョは、まずはロンドン最大のライバルであるベンゲルをつぶし、いよいよその全身全霊をかけて、プレミア王者の座を奪還しようとしている。
【了】
森昌利●文 text by Masatoshi Mori