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モウリーニョの罠にはまったベンゲル 今季優勝にかけるモウリーニョの執念
敵将を突き飛ばしたフランス人監督の“暴挙”
10月5日の夜に放映されたBBCのプレミアハイライト番組『マッチ・オブ・ザ・デイ2』に解説者として出演していた元アーセナルの名センターバック、マーティン・キーオンは、「ベンゲルのことは良く知っているはずだが、今日の彼の冷静さを欠いた行為には驚いたのではないか?」と司会者に水を向けられると、「少々ね」と話しはじめ、「I think that Mourinho worked hard to get under his skin」(私が思うに、モウリーニョは彼をいら立たせようと懸命だった)と付け加えた。
翌日6日付の英大衆紙『デイリー・ミラー』に掲載された記事に、チーフ・スポーツライターのオリバー・ホルト記者はこう記している。
「試合開始のわずか5分後、モウリーニョは1-0とリードした。
チェルシー・ダッグアウト付近でボールがサイドラインを割ったアーセナル・スローインの場面。アーセナルのSBギブスとエジルの2人が揃ってボールボーイに突進して、ボールを要求した。
それと同時に、モウリーニョはそのボールボーイに向って自分にボールを投げろとゼスチャーを送った。するとスタンフォード・ブリッジで働く少年は、自分に向って脱兎のごとく駆け寄って来たアーセナル2選手には目もくれず、モウリーニョに向って山なりのボールを投げた。
ボールを持つと、モウリーニョは、“そこからだ”とアーセナルの2選手にスローインの地点を指差した。
ベンゲルはわずか数ヤード離れたところで苦虫をつぶしたような表情でこのやり取りを眺めていた。一方モウリーニョはボールボーイに向って破顔一笑すると、自分にボールを投げてよこした判断に親指を上に向けて応えた」
確かに些細な出来事だったかも知れない。しかし、試合開始直後といえる前半5分の時点で、大勢に影響しないハーフライン付近のスローインにも積極的に関わり、自軍に有利に試合を進めようとするモウリーニョの行動がベンゲルの顔をゆがめた。そして、ホルト記者はこの時点で相手の神経を逆なでして、後のベンゲルの暴挙を引き出したモウリーニョのスローイン介入を“1-0とリードした”と表現し、これもポルトガル人闘将の策略のひとつだったと示唆した。
フランス人名将の“暴挙”は、このスローインからわずか15分後に起きた。前半20分、チリ代表FWサンチェスがチェルシー陣営の左サイド、すなわちテクニカルエリア側でケンヒルの危険タックルで倒されると、ベンゲルはおもむろにモウリーニョに近寄り、その胸を突き押してしまった。
もちろん前半5分の“ボールボーイ事件”以外にも布石はあった。それは昨季終盤に差し掛かった2月、2人の間に突如として巻き起こった舌戦だった。
きっかけはベンゲルが作った。昨シーズン、5季振りにチェルシーの指揮を取ったモウリーニョは、開幕から「今季のチェルシーに優勝する力はない」と語り続け、低姿勢を貫いていた。
2月の時点で、チェルシーはプレミアの首位に立っていたが、それでもモウリーニョは「マンチェスター・Cが本命。それに今季は欧州戦がないリバプールも有利」と話した。
昨季は、確かにここでモウリーニョが語った通り、終盤でマンチェスター・Cとリバプールの一騎打ちとなり、最終的に戦力優位のマンチェスター・Cが優勝したのだが、この時点では優勝に一番近かったポルトガル人闘将の“らしくない低姿勢”について、ベンゲルは「失敗に対する恐れがあるのではないか」と発言したのである。