「日本のやり方も悪くない」 ドイツ人コーチが語る選手育成システム、大学進学の利点は「チャンスを探れる」
日本の大学進学についても言及「人生についてじっくり考える時間を持てる」
プロの育成機関でずっとプレーしてきている選手たちだ。資質は間違いなくある。だからそこで甘えてしまう選手も少なくないし、U-19まではそれでも上手くいくことはある。ゴールを量産し、競り合いで負けなしでプレーする選手もいる。そうした選手が自分に厳しく、将来を見据えてハードに取り組むのが最善だが、週末に明らかに自分よりレベルが低い相手との試合が繰り返されたら、どうしても気持ちに緩みは出てしまう。
「だから個々を見ることは大事だ。U-19の選手にもすでにプロフェッショナルなメンタリティーを持った選手がいる。そうした選手はちゃんと大人のサッカーでも順応するための準備ができているから、時折U-23に上がってプレーする環境を作ってあげたりもする」(ペッシュ氏)
U-23は選手にとっても気持ちの整理をつけていくのがとても難しい時期だという。U-19まではみんな一緒のチームでやっていたのに、トップチームでプロデビューを飾る選手が出てくる一方で、U-23に昇格できずに別の道をすでに決断した仲間もいる。自分はU-23で試合には出られているけど、道のりはまだ遠い。ここからどうしたらいいんだろうと悩みながら、練習を重ねていく。メンタル的にも簡単なはずがない。
「彼らに寄り添いながら、この2年間で自分はどちらの方向に向かった方がいいのかを具体的な数字や事例を出しながら、一緒に考えていくんだ。それぞれの適正もある。その点からすると日本のやり方というのも悪くないと思うんだ。U-18の後に大学のチームに行ったりするんだよね。ということは22歳までそこでチャンスを探ることができるし、大学で学ぶこともできる。人生についてじっくり考える時間を持てる。これは大きなメリットだよ」(ペッシュ氏)
選手の成長に必要な環境は一律ではない。選手個々の性格や性質、その時々の課題とそれをどのように改善すべきかにも関わってくる。王道があるわけではない。そしてプロにたどり着くことだけがゴールではない。選手の将来と成長に向き合えるセカンドチームという存在意義は正しく理解されてほしいものだ。
(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)
中野吉之伴
なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。