「日本一が珍しい環境ではなかった」 元FC東京U-18高瀬和楠がアメリカへ渡った理由
米国の大学リーグ、AACで日本人として初めて年間最優秀GKに選出
FC東京U-18出身のGK高瀬和楠は2018年に高校を卒業後、アメリカ・フロリダ州にあるサウスフロリダ大学に留学。全米大学スポーツ協会(NCAA)のディビジョン1に相当するアメリカン・アスレチック・カンファレンス(AAC)で戦ってきた。渡米後には怪我に苦しむも、大学ラストイヤーとなった21年シーズンにトップリーグの年間最優秀GKに選出される日本人初の快挙を成し遂げた。中学と高校で日本一を経験していた男はなぜアメリカへ渡ることを選んだのだろうか――。(取材・文=石川遼/全2回の1回目)
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現在21歳の高瀬はFC東京の下部組織で育った。U-15時代にも日本一を経験。U-18時代の16年には夏の日本クラブユース選手権と冬のJユースカップ(現・Jリーグユース選手権大会)の2冠達成に貢献するなど常に世代のトップレベルでプレーしてきた。
1つ上の世代にはGK波多野豪(FC東京)、ともに日本一になったチームには日本代表MF久保建英(マジョルカ)やMF平川怜(松本山雅FC)などかつてのチームメイトの中にはすでにプロとして活躍する選手がずらりと並ぶ。そうしたなかで高瀬も卒業後にJリーグや日本の大学進学が選択肢にあったが、「目の前の線路をそのまま進んでいる気がしていました。当たり前の人生を送るのはつまらない」とアメリカへの留学を決意した。
「正直、僕はものすごく運が良かったと思います。これまで全国優勝、日本一というものがそんなに珍しいものではありませんでした。U-15の時にクラブユースで優勝できましたし、1個上の世代も準優勝でした。U-18では、1個上も僕たちの代も2冠を達成しています。生意気に聞こえるかもしれないですが、優勝が珍しい環境ではなく自分の中でそれがすごいことだと実感があまりなかったんです。全国制覇して、そのままプロや大学に進んだ選手を数多く見ていたからこそ、僕の中ではそれが“線路をそのまま進む道”に見えてしまったんです」
より厳しい道を求めた高瀬はアメリカで実力を磨き、各大学の監督やコーチの投票で決まるシーズン年間最優秀GKにまで上り詰めた。結果次第では“クビ”すらもあり得るプロ顔負けの競争がある大学サッカーリーグの中での快挙。渡米から間もない1年時は英語でのコミュニケーションに苦戦し、2年時には怪我による手術でシーズンを丸々棒に振った。3年生になってようやく試合に出られるようになると、集大成となるラストシーズンでついにこれまでの努力が実を結んだ。
今年は怪我で開幕から4試合を欠場したが、復帰以降はレギュラーとして奮闘。「シュートを止めて、チームを助けるようなプレーができていた実感はありました。それに伴ってチームの結果も付いてきましたし、自分の中でも(年間最優秀GKを)もらえる手応えは感じていました」。高瀬はアメリカの地で自信を深めていた。
「僕のYouTubeを見てアメリカ留学に興味を持ってくれた人もいます。そこでいろいろなことに挑戦できると言っても、そこで僕がプロになって活躍できなければ説得力に欠けてしまいます。発信の価値を高めるためにも、将来的にはプロに入って活躍することを目標にしています」