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教え子が続々とJクラブ加入内定――現役東大生はなぜキック専門トレーナーになったのか?
アプローチは実践ベース、選手の感覚を尊重して「選手ファースト」で指導
田所が行うパーソナルトレーニングに足を運ぶと、和気あいあいとした雰囲気のなかで体を動かす武沢や住田の姿があった。ベルトを使ってフォームを固定する補強トレーニングや軸足の置き方、骨盤の回し方などを意識したキックの実戦などでおよそ1時間半。武沢も住田も、田所の助言を受けながらキックを繰り返し、その感触の良さに思わず笑顔を浮かべる。
キックが自分の武器だと自負する住田をしても「今までずっとサッカーをやってきたけど、初めて聞くような知識や蹴り方ばかり教えてもらえる。より高いレベルでやっていくためのトレーニングができている」という。対照的にキックに苦手意識を持っていた武沢も「ここではかなり成長を感じている」と手応えを明かした。樫本も含め、田所には全幅の信頼を置いている。
田所の考えでは「学問から積み上げていくアプローチじゃ選手のパフォーマンスを変えることはできない」ため、キックに対するアプローチは「実践」がベースになっている。キックの名手であるデ・ブライネを徹底的に分析したのも、正しいキックには無限の解があるなかで結果を残し続けるトップ選手たちのキックを1つの“最適解”と見ているからこそ。そこから考え、選手1人1人の特徴に合わせた指導を行っていく。また、机上の空論で終わらないよう自身もキックの練習は怠っていないのもこだわりの部分だ。
そんな田所がパーソナルトレーニングをするうえで大切にしていることは「選手ファースト」。複数の部員を一度に教えるア式蹴球部での活動とは違い、選手により近く寄り添えるからこそ自分本位にならないよう、選手の感覚を尊重しているという。
「住田さんがプロに決まったと聞いた時も、トレーナーとしては自分の指導のおかげだと思いたくなるところですけど、そういう思いは控えめにしています。そうやって自分の手柄として評価するのではなく、選手自身が感じるものを大切にしたいんです。この前は2人とも午後からチームの練習があるのに、昼前にわざわざ時間を取ってトレーニングをしにきてくれました。それは選手の中で自分のキックが変わっている感覚があるからこそだと思います。今日も蹴った後にすごくニコニコしたりしていて、そういう姿を見ていると嬉しくなります。住田さんはプロ入りが決まったときも向こうから連絡をしてきてくれました。『またお願いします』と言ってもらえたりすると、選手の力になれているんだなと感じられて嬉しいです」