川崎の家長昭博が醸し出す“ベテランの妙” 「当たってもビクともしない」まるで柔道家のような“威圧感”は特筆もの

川崎MF家長昭博【写真:高橋 学】
川崎MF家長昭博【写真:高橋 学】

【識者コラム】J1リーグ連覇を果たしてチームで際立った存在感

 大阪のある店で家長昭博を見かけたことがある。プライベートなので声をかけたりはしなかったが、立っているだけで近寄ると弾き飛ばされそうな力感があったのを覚えている。

 柔道家の吉田秀彦と同種の威圧感だった。こちらも偶然見かけただけなのだが、後ろ姿だけでも強そうだったので印象に残っている。K-1選手にインタビューしたこともあるのだが、吉田ほどの力強さは感じなかった。うまく言えないが、あの漲るパワーを感じた人は吉田と家長しかいない。

 4試合を残してJ1連覇を成し遂げた川崎フロンターレは今季も強かった。

 優勝が決まるまでの34試合に限って見ればわずか1敗。最多得点、最少失点と他を寄せつけなかった。三笘薫と田中碧が移籍し、ACL(AFCチャンピオンズリーグ)ラウンド16で敗退したあたりはさすがに失速もあったが、橘田健人と新加入のマルシーニョが田中と三笘の穴を埋め、負傷者の回復とともに手堅く勝っていった。

 17ゴールのレアンドロ・ダミアン、守護神チョン・ソンリョン、カウンター対応で抜群だったジェジエウ、豊富な運動量とテクニックで中盤を支えた脇坂泰斗、旗手玲央など、活躍した選手を上げたらきりがないが、存在感ということなら家長だったと思う。

 お馴染みの右腕1本で相手を寄せつけないキープ力は、DFがなぜもっと当たりにいかないのかと思うかもしれないが、あれはもう当たっても無駄だと分かってしまうからだろう。体が大きいわけではないが、多少当たってもビクともしないのが分かるのだ。同じ店に居合わせただけでそう感じたのだから、フィールドで対戦したらお手上げなのではないか。

 左足の放り出すようなロブは、素直な回転と軌道で正確に届けられる。止める、キープする、蹴る、すべてに余裕綽綽(しゃくしゃく)。ベテランの味だ。ポジショニングも変幻自在、定位置は右サイドだが、ときどき左サイドにも顔を出すし、下がってビルドアップを助けることもある。片側サイドに家長が行く時は狭い場所に人が集まるので、下手をすると効率が悪くなるのだが、圧倒的なキープ力と展開力を生かし、家長がプラスされるオーバーロードは困った時の打開策になっていた。

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西部謙司

にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。

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