名古屋“再生工場”に適任だったフィッカデンティ監督 日本サッカー界に刺激を与えている
能力を見極め正しく引き出す指導力、稲垣祥を再度輝かせた手腕
ただしフィッカデンティ監督の真髄は、迅速な戦術的な対応とともに、改めて個々の能力を見極め正しく引き出す指導力にある。今年29歳で初めて代表に選ばれた稲垣祥も「戦術的にもサッカーへの向き合うマインドでも学んで成長できた」と語る通り、陰りかけた素材を再度輝かせ、成長過程の選手には弾みをつけていく手腕が際立っている。それはかつてFC東京時代に武藤嘉紀をFWで抜擢して大化けさせた例でも証明済みだ。
名古屋は経験豊富な選手たちの集合体であり、そういうチーム作りができたのもクラブの特性とも言える。当然高齢化の傾向は否めないが、堅守や安定を武器にするチームが出来上がるのは必然の流れだった。
セリエAからやって来たフィッカデンティ監督は、Jでは異質でロティーナ(清水エスパルス監督)と並び、とことん結果にこだわる掛け値なしのプロフェッショナルだ。それは夢や娯楽性を追う監督とは対極を成すかもしれないが、日本サッカー界にとって貴重な刺激を与えていることは確かだと思う。
加部 究
かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。