「サポートを受けすぎ」 ドイツ指導者が語る育成の鍵、充実環境のメリット&デメリット
上まで上がってこれるかどうかの“決定的なポイント”とは?
ドイツは近年育成にも様々な投資をし、プロフェッショナル化を図ってきた。バイエルン・ミュンヘン、ボルシア・ドルトムント、RBライプツィヒといったクラブの育成チームは、本当にブンデスリーガトップチームのような環境で活動ができている。
でも選手の成長に大切なのは何もかもが与えられることではなくて、自分で課題を探し出し、自分から取り組んでいく姿勢。そうしたなかで選手それぞれが「プロになる」ということの意味を本当に理解できるようになる。最高ではない環境だとパフォーマンスを出せないというのはプロではない。現状を分析して改善をするというのは必ずしも、より良い施設や周辺整備をするということではないのだ。ペッシュ氏は次のように語る。
「個々の取り組む姿勢というのが、プロレベルで見た時にも上まで上がってこれるかどうかの決定的なポイントになる。プロの世界に言い訳はない。求められるパフォーマンスを発揮できるかどうかだ。自分でやる力のないものにチャンスはない。ポルトガルやオランダといった小国からタレントが出てくるのはなぜか。まさにそうしたところにもポイントがあると思っている。
ただ、ドイツだと難しいのは『選手の自主性を高めよう』とか、『難しい状況において抵抗力を身に着けてもらおう』とする意義を正しく理解してもらえないことがあるからなんだ。例えば選手が間違った決断をしたためにミスとなり、失点をして試合に負けることもある。本来そこから学ぶことは多いんだけど、でも試合に負けたらやっぱり何か言われてしまうことはある。何もかもを自由にプレーしろというわけではないよ。それぞれの選手がやるべきことを整理してピッチに送り込むことだってやっぱり必要なことなんだ。このあたりのバランスだよね」
才能はある。しかし、自分で課題を見つけて、貪欲に意欲的に自分から取り込もうという意識が低いために表舞台から消えた選手は数知れず。指導者は助けることはできる。アドバイスを送ることはできる。ビデオ映像を見せて、修正箇所を伝えることはできる。でもやるのは本人だ。
中野吉之伴
なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。