【現地発】「絶対にいけない」――ドイツ指導者が語るサッカー少年少女“育成論”とNG行為
「一番大事なのは、サッカーが楽しいという気持ちを呼び起こしてあげることだよ」
「『トップレベルの選手が輩出され続けなければならない』というのは、足かせになってしまうかもしれないといった自覚を持つことが大事」とペッシュ氏は指摘する。
「例えば『ドイツ代表がどんな大会でもベスト8までは残れる戦力を』というならば、ある程度、計画することができるだろう。でも『毎大会ベスト4から優勝を』というのであれば、前述したようにそこには様々な要素が関わってくるから、計画するのはほぼ不可能だ。
『ドイツの育成力が急激に落ちた』わけじゃないんだ。今のドイツ代表を見ても良い若手選手はたくさんいるだろう? カイ・ハフェルツ、ティモ・ヴェルナー、フロリアン・ノイハウス、ジャマル・ムシアラ、フロリアン・ヴィルツ、カリム・アディエミ。それだけのレベルがあるというのは確かなんだ。
例えばフランス代表にはキリアン・ムバッペがいる。個のクオリティーとしては彼ほどの選手はそうはいない。でも彼のような選手が出てきたのは育成力のおかげなのか? それとも彼という選手が出てきたからなのか。じゃあなんでムバッペのような選手が続いて出てこないんだ? これは難しいテーマなんだよ」(ペッシュ氏)
プロになるためには「これをやればなれる」という確かな方程式があるわけではない。そして自分たちの試みがそのまますぐに反映されたりすることは、トップレベルになればなるほど難しくなる。だからといって手付かずのままでは下り坂を転げ落ちていってしまう。
だからみんな改善策を見出して新しい取り組みをしようとするし、少し歯車がずれたところが調子を落として立場が入れ替わったりする。そうした背景を含めて全体のメカニズムを長い視点で捉えることができる人たちは、その時々で自分たちの立ち位置を改めて分析して、新しく正しいアイデアを出すことができる。なんでサッカーをしているのか。僕らはそのスタート地点を見誤ってはいけないのだ。
「小さい頃の子供たちに一番大事なのは、サッカーが楽しいという気持ちを呼び起こしてあげることだよ。サッカーが好きな子だったら週に2回のトレーニングのほかに、空いた時間に空き地でサッカーをする。毎日サッカーをやってる子だってたくさんいる。でもそこにプレッシャーやストレスがあってはいけないと思うんだ。義務になったら絶対にいけないんだ。サッカーが楽しいからプレーをする。上手くなるためにというのを言い訳にしてはいけない。子供たちをU-19の選手のようにトレーニングをしてはだめだよ。モチベーションは子供たち自身から出てこないといけない」(ペッシュ氏)
(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)
中野吉之伴
なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。