フランス代表優勝で流行る“5-2-3”システム サッカーが進化すればハンドボールに近づく
【識者コラム】UEFAネーションズリーグ優勝のフランス代表が見せた変貌
UEFAネーションズリーグで優勝したフランスが変貌していた。
準決勝でベルギー、決勝でスペインを破っての優勝。ディディエ・デシャン監督のレ・ブルーはワールドカップに続くタイトル獲得である。
欧州選手権(EURO)ではラウンド16で姿を消していた。アントワーヌ・グリーズマン、キリアン・ムバッペ、カリム・ベンゼマの3人をいかに共存させるかで試行錯誤を重ねたが、ついに確たる答えを見いだせないままの敗退している。
ネーションズリーグではその答えを示していた。
見出した答えは5-2-3だ。ベンゼマ、ムバッペの2トップ+グリーズマンのトップ下だが、むしろ立ち位置で考えたほうが分かりやすいだろう。まず、守備では5レーンの中央3レーンを3人で埋めていた。これまで3人の守備負担の軽重をどう調整するかで苦心していたわけだが、各自のレーンを担当するという同等負担になった。3レーンのどこを担当するかはその場で入れ替えているが、3人で各レーンを埋めるということは明確だった。
攻撃は中央3レーンを起点に、それぞれの判断でポジションを取る。グリーズマンはやや引き気味で速攻と遅攻をコントロールし、ムバッペはスピードを生かすためにサイドへ開くことが多く、ベンゼマはCF(センターフォワード)だがグリーズマンとムバッペの中間的なプレーもこなす。これはそれぞれの個性なので、以前とさほど変わらない。守備時のタスクを明確化したことが大きいのだと思う。
3人の守備エリアを中央3レーンに決めたので、従来の4バックならシステムは4-3-3しかありえない。それもリバプール方式の、FWが相手SBへのパスラインを切る形の守備しか選択肢はない。ところが、デシャン監督の選択は4バックでなく5バックだった。つまり、5-2-3システムである。
5-2-3はMFの「2」がいかにも手薄に見えるが、結果的にこのシステムが奏功していた。オーレリアン・チュアメニとポール・ポグバで組む「2」では、さすがにフィールドの横幅はカバーできない。基本的には前線の3人の隙間を塞いでいけばいいのだが、それでもウイングバックの手前のスペースにつながれて、タッチライン近くまで動くこともあった。コンパクトにできている時はウイングバックが大外レーンを前に出て守ってくれけれども、毎度そうもいかない。チュアメニとポグバの運動量はかなりのものになっていたはずだ。
そもそもこれでは中盤をスペインに支配されるのは明白だった。ただ、フランスとしてはそれで良かったのだと思う。デシャン監督は試合前から「スペインのパスワークは制御できない」と話していた。中盤は支配される。しかし、自陣と敵陣の両方のゴール前で勝てばいい。そういう考え方だろう。
フランスの5バックは非常に堅固だった。1対1でほぼ負けない。そしてベンゼマ、グリーズマン、ムバッペのFWはスペインのDFに対して優位性があった。
西部謙司
にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。