ドイツで1年半ぶりにミックスゾーン復活 原口元気の丁寧な対応、そこにしかない価値
選手との距離は1.5メートル、ミックスゾーンへ降りてきた原口と対話
選手と対峙して話ができるのは実に1年半ぶり。選手との距離は1.5メートル取らなければならないし、もちろんジャーナリストはマスクを着用。ドキドキしながら待っていると、両チームの選手が姿を現し出した。この日スタメン出場し、後半17分までプレーしたウニオン・ベルリンの原口元気は試合終了のホイッスルを聞くと、ベンチから立ち上がり、フッと一息出すと笑顔でスタッフや味方選手と握手をしていた。ミックスゾーンへ降りてきた原口はこちらの存在に気付くとすぐに歩み寄り、終始にこやかで丁寧にこちらの目を見て対応してくれた。
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外から僕らが見ている風景と中で選手が見ている風景は当たり前だけど違う。どんな意図で、どんな狙いで、なぜそうしたことが起こったのかを聞かないと分からないことがたくさんあるのだ。
この試合、ウニオンの失点シーンは原口のボールロストがきっかけになってしまった。センターサークル付近で味方からのパスを収めきる前に相手DFに奪われ、そこからのカウンターを受けての失点だ。味方のマックス・クルーゼは思わず原口に怒鳴っていた。
本人はどのようにあのシーンを解釈していたのだろう。原口は次のように振り返っていた。
「あのシーン確かにパスが弱かったんだけど、周りを見ているタイミングで寄せられてしまったというのがあった。でも周りを見ることが大事なので、たまにはああいうミスも起こるなと。個人的に意識しているのはボールが来る前に周りを見ておくことで、どれだけ認知できるかだと思うので、中盤の選手は」
「上手くいったらあそこから(ウニオンの)カウンターになっていたシーンだったと思う。そういう意図を持っていたから。ただボールに寄るだけだったら誰でもできる。本当に上手い選手はああいうところ入れ替わったりできるんで。そういうのも狙っていかないとできないから」
外から見ていたら「あそこでボールを収めるなり、パスを戻すなりしなかった原口のミス」と書かれて終わりなのだろう。でもセンターライン付近でのボールロストからあっさりとシュートまで持ち込まれたことはチームとしての課題でもある。もちろん《周りを見ようとしていたからあそこでボールロストをしてもいい》なんてことはない。それは原口自身も分かっている。
「監督には言われると思うけど(苦笑)。『Zum Ball(ボールに行け!)』ってすげぇ言われるから」
チームとしてやるべきことは理解したうえで、自分の挑戦を続けているのだ。そうしたなかで出場機会を確保し、7節終了時に7位につけているチームで大切な戦力として活躍している。
中野吉之伴
なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。