日本代表が避けたい“レアルの轍” W杯アジア予選でも起こりうる番狂わせ
【識者コラム】アウトサイダーのシェリフ、CLレアル戦で大金星
UEFAチャンピオンズリーグ(CL)の第2節、FCシェリフ・ティラスポリがレアル・マドリーを敵地サンチャゴ・ベルナベウで破った。スコアは2-1、シェリフはほぼ押し込まれていたが終了間際のミドルシュートで大金星をあげている。
モルドバの強豪クラブだが、CLの本戦出場はこれが初めてだ。1997年に複合企業のシェリフが設立した。歴史は浅い。CLでは全くのアウトサイダーと見られていた。
選手のほとんどは外国籍で、コロンビア人のキャプテンのフランク・カスタニェダをはじめ、ブラジル、ギリシャ、スロベニア、マリ共和国、ルクセンブルクなど国籍もさまざま。4-2-3-1のオーソドックスなシステムと堅固な守備でカリム・ベンゼマのPKによる1失点で抑えている。
レアルはそれほどメンバーを落としていたわけではない。ヴィニシウス・ジュニオール、フェデリコ・バルベルデ、新加入のエドゥアルド・カマヴィンガの若手が先発していたが、リーグ戦でも先発しているレギュラーだ。プレーぶりも普通だった。少し凡ミスが多かったけれども、とくにいい加減なプレーしていたというわけでもない。
ベンゼマのPKで同点にした直後の後半21分には一気に4人を交代させ、4トップに近い形で勝負をつけにいっている。そこに少し隙があったかもしれないが、ホームで3ポイントを取りに行く意欲は満々だった。
クラブの歴史、選手の格、経験、経営規模など、どれを取ってもレアルとシェリフは比較にならない。雲泥の差といっていい。だからシェリフの勝利は大番狂わせで、歴史的な勝利ではあるが、試合単体でみれば奇跡というほどではなかった。サッカーでよく起こる試合の一つにすぎない。
シェリフの守備は非常にオーガナイズされていて強固だった。そして運もあった。チャンスはレアルのほうが多かったが、いくつかの決定機を決め損ねていた。2得点はまぐれではないが、1点に抑えられたのはいくぶん幸運ではある。だが、一生の運をすべて使い果たすようなツキに恵まれたわけでもない。
西部謙司
にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。