去就問題に揺れたケイン、残留の理由 248億円で売却約束…トッテナム会長“執念の読み”

トッテナムのダニエル・レヴィー会長【写真:Getty Images】
トッテナムのダニエル・レヴィー会長【写真:Getty Images】

移籍を実現させなかった、辣腕ビジネスマンの確信に近い“読み”

 それに、確かにテクニックも優れているが、所詮、ケインはイングリッシュ。ひたすら正確さを求めるペップのポゼッションサッカーに対応し、味方が相手陣営に押し込んで全くスペースのないゴール前でボール1個分のシュートコースを探し、まさに針に糸を通すようなフィニッシュを決めるというプレーがしたいのだろうか。結局のところ、スペースのない混み合ったゴール前でゴールを奪い続けた、南米出身のセルヒオ・アグエロとは違うのだ。

 それよりもファンはここ2、3年、ソン・フンミンとタッグを組んで完成させた素晴らしくも力強い連係を見続けたいのではないだろうか。

 ハーフウェーラインからスパっとケインが強い縦パスを放ち、奇跡のようなタイミングで飛び出した韓国代表FWがボールに飛びつくと、豪快に右足を振り、わずか2タッチでゴールが決まる胸のすくような得点シーン。また、サイドを突き抜けたソン・フンミンからのクロスにケインが自慢の豪脚を合わせて決める豪快なゴールの数々。2人がいれば、どこからでも点が取れる。そんなトッテナムのサッカーは魅力たっぷりである。

 それに加えて前節のノリッジ戦で5点を奪ったシティの連係は凄まじかった。特にケインとのトレードでトッテナム行きが噂されたガブリエル・ジェズスの2アシストを記録したパフォーマンスが見事だった。両アシストとも右サイドを一瞬で抜け出し、ショートクロスをピンポイントで放ったプレーだったが、偽9番、そしてこうしたスピーディなアシスト役もできる24歳ブラジル人を大成させてこそ、名監督グアルディオラの面目躍如だと思う。

 まあ、確かに個人的な意見ではあるが、バルセロナの悲劇的な現状を見て、サッカーを滅ぼしかねない度の過ぎた金満移籍は、もうごめんだと思うのは筆者だけではないと信じたい。

 バブルが弾けた今、あくまでFFPに準じた補強に留め、その一方で現勢力やユースに焦点を当てたチーム構想に力点を移すべき。そうした意味でも、今回のケインの移籍は実現してほしくないと願っていた。

 そして最後に一言付け加えると、今回のケイン移籍を引き留めたのは、すべてがレヴィ会長に起因するということだ。念願だった新スタジアムを完成させたのはいいが、飛ぶ鳥を落とす勢いだったマウリシオ・ポチェッティーノがCL決勝でリバプールに敗れてから、あっという間に失速。優勝請負人のジョゼ・モウリーニョに夢を託したが、ポルトガル人闘将にかつての輝きは戻らず。今季はCLどころかUEFAヨーロッパリーグの下に新設されたUEFAヨーロッパカンファレンスリーグ(ECL)を戦う状況だ。

 さらに生え抜きエースで、イングランド代表主将も務める“チームの顔”ケインに出て行かれたら、現在のプレミアで「ビッグ6」と呼ばれる6強軍団の中から、奇しくも先に低迷し始めた北ロンドンのライバルであるアーセナルとともに転げ落ちてしまう。

 そんな無様な格落ちだけは許せない。向こうが250億円を払えば出て行ってもいい。そこには辣腕のビジネスマンで、子供の頃からスパーズを愛するレヴィ会長の“FFP抵触を恐れるシティのオファーは絶対この金額に届かない”という、執念にも似た確信があったに違いない。

(森 昌利 / Masatoshi Mori)

森 昌利

もり・まさとし/1962年生まれ、福岡県出身。84年からフリーランスのライターとして活動し93年に渡英。当地で英国人女性と結婚後、定住した。ロンドン市内の出版社勤務を経て、98年から再びフリーランスに。01年、FW西澤明訓のボルトン加入をきっかけに報知新聞の英国通信員となり、プレミアリーグの取材を本格的に開始。英国人の視点を意識しながら、“サッカーの母国”イングランドの現状や魅力を日本に伝えている。

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