去就問題に揺れたケイン、残留の理由 248億円で売却約束…トッテナム会長“執念の読み”

グリーリッシュに155億円を使い、ケインにそれ以上の金額を使うとは…

 一方、8月3日の時点で「BBC」をはじめ、英メディアが一斉にケインがトッテナムの練習に戻らなかったことを報じたが、同時にシティの移籍金オファーは1億2000万ポンドで(約186億円)で、レヴィ会長の希望額とは4000万ポンド、日本円にすると約62億円もの“開きがある”というレポートもあった。

 前述のツイッター投稿で、ケインはウォルバーハンプトン戦に途中出場してトッテナムサポーターから受けた歓迎が「信じられないほど素晴らしかった。また(横断幕に掲げられた)メッセージにも心を打たれた」と綴り、ファンの思いも今回の残留につながったとしているが、要するにケインの移籍が流れたワケは、言われてみれば単純明快な話ではあるが、シティの提示額がレヴィ会長の要求金額に届かなったことが最大にして唯一の理由だ。

 その背景には、全世界のサッカーファンならご存知の通り、8月6日にシティが1億ポンド(約155億円)という英国史上最高額となる移籍金で、イングランド代表MFジャック・グリーリッシュをアストン・ビラから正式に獲得したことがある。これに加えて、ケイン獲得に250億円弱の金額を使えばどうなるのか――。そう、またしてもシティがFFP(ファイナンシャル・フェアプレー)に違反しているのではないかという疑念が再燃するはずだ。

 それもシティの総収入額を見れば一目瞭然だ。世界的会計事務所「デロイト」がまとめている「フットボールマネーリーグ」を参照すると、一昨季の2019-20シーズン、2020年3月から新型コロナウイルスの感染拡大で英国はロックダウンに入り、プレミアは6月まで試合が停止された。しかも再開後は無観客試合となり、当然収入は軒並みダウン。シティも例に漏れず、前年の2018-19シーズンの6億1060万ユーロから5億4920万ユーロに収入が減った。

 そして昨季の2020-21シーズンに至っては、観客入場が許されたのはほんの2~3試合。予想以上にロックダウンが長引き、ほとんどの公式戦が無観客試合となって、さらなる収入減が予想されている。

 10試合が無観客となった2018-19シーズンが約6000万ユーロの減収なのだから、昨シーズンの場合、シティの収入は5億ユーロを下回る数字になるかも知れない。

 ところがそんな危機的状況で、シティはグリーリッシュに1億ポンドを使い、ケイン獲得のために1億6000万ポンドを費やそうとしていた。

森 昌利

もり・まさとし/1962年生まれ、福岡県出身。84年からフリーランスのライターとして活動し93年に渡英。当地で英国人女性と結婚後、定住した。ロンドン市内の出版社勤務を経て、98年から再びフリーランスに。01年、FW西澤明訓のボルトン加入をきっかけに報知新聞の英国通信員となり、プレミアリーグの取材を本格的に開始。英国人の視点を意識しながら、“サッカーの母国”イングランドの現状や魅力を日本に伝えている。

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