去就問題に揺れたケイン、残留の理由 248億円で売却約束…トッテナム会長“執念の読み”
【英国発ニュースの“深層”】今夏マンC移籍報道が過熱、チラついていたFFPの存在
「この夏はトッテナムに留まる。100%集中してチームの成功のために力を尽くす」
“この夏は”という部分が気になるところではあるが、イングランド代表主将のFWハリー・ケインが8月25日、自らツイッターに投稿し、トッテナム残留を明らかにした。
しかし先月の7月22日、英大衆紙「ザ・サン」は「マンチェスター・シティ移籍確定」と報道していた。移籍金1億6000万ポンド(約248億円)。さらに年俸2000万ポンド(約31億円)の4年、もしくは5年契約となる個人条件は、“すでに合意済み”と伝えた。
同紙が移籍確定報道に踏み切ったのは、この記事が出る前週の金曜日(7月16日)にトッテナムのダニエル・レヴィ会長が「(移籍金)1億6000万ポンドで了承する」とケインに直接電話をかけて伝えたという情報を入手したからだ。
この情報は、ケインの近親者が提供した。レヴィ会長から“移籍了承”の電話を受けたケインは、翌々日の18日に行われた代理人でもある実兄チャーリーさんの結婚式に出席。その時にケインと同席した近親筋が、「(シティへの移籍がレヴィ会長に認められて)喜びを隠し切れなかった。(子供時代からの贔屓チームであるトッテナムを)悪い形で離れたくなかったということもある。EURO(欧州選手権)の活躍でさらに移籍金も跳ね上がり、トッテナムにとってもハリーにとっても良い移籍になった。これでハリーはトロフィーが勝ち取れる」と証言している。
ところが、この決定的な報道から1週間が経っても2週間が経っても、ケインの移籍が正式に発表されない。
奇しくもトッテナムが主将を引き抜こうとしているシティとのプレミアリーグ開幕戦を迎えても決まらず。それどころか7月28日に28歳となったイングランド代表主将は、8月21日に行われたウォルバーハンプトン戦で後半27分から同僚エースのソン・フンミンに代わって途中出場し、今季の初戦もトッテナムの選手としてプレーした。試合後、古巣相手のアウェー戦を1-0で競り勝ったヌーノ・エスピリト・サント新監督は、「彼(ケイン)がチームの一員でいることは非常に幸運だ」と語り、まるで移籍など起こるはずがないというようなコメントを発している。
「ザ・サン」の報道で信頼できるのは、レヴィ会長がケインに“電話をした”という部分だろう。そもそも、これが事実でなければ記事にならない。そこで「オファーが1億6000万ポンドなら移籍を了承する」と伝えたのも、本当だと思う。
森 昌利
もり・まさとし/1962年生まれ、福岡県出身。84年からフリーランスのライターとして活動し93年に渡英。当地で英国人女性と結婚後、定住した。ロンドン市内の出版社勤務を経て、98年から再びフリーランスに。01年、FW西澤明訓のボルトン加入をきっかけに報知新聞の英国通信員となり、プレミアリーグの取材を本格的に開始。英国人の視点を意識しながら、“サッカーの母国”イングランドの現状や魅力を日本に伝えている。