日本代表DFの瞬時の判断、「相手を信じた結果の対応」とは? 栗原勇蔵×昌子源対談【前編】
普通に見たらシュートコースでヘディングでクリアしただけだが…
栗原 そうだったんだね。昌子選手自身は終了間際の金子(拓郎)選手のシュートをヘディングで防いだシーンが「納得いくプレーだった」と聞いているんだけど、どうして納得いくプレーだったの?
昌子 終了間際のあの時間帯ということもあって、絶対にパスはしないだろうと思っていたんです。それと、金子選手は必ず左足でシュートを打つだろうなと。宇佐美(貴史)が金子選手の対応をしていたんですけど、宇佐美がどういう対応をしようが絶対に左足で打つと僕は確信していたので、金子選手が打つまではカバーに入っていないんです。金子選手自身は恐らく東口(順昭)が触れないコースにシュートを打つだろうなと思っていた。でも、そのコースに早く入ってしまったら、宇佐美の股を狙ったり、違うことを考えられると思って、打つ瞬間まであえて動かなかったんです。それでシュートを打つ瞬間に一歩だけ中に入ってヘディングでクリアしました。いい意味で金子選手を信じた結果の対応だったんです。
栗原 なるほどね。一見、ただのワンシーンのようだけど、そこにはすごい駆け引きがあったってわけだね。
昌子 ありましたね。普通に見たら、シュートコースでヘディングでクリアしただけのように見えるかもしれないですけど、よくよく見ていただいたら、それまで僕は一歩も動いていなかったり、シュートを打つ瞬間に一歩中に入っていたりしていることが分かると思います。それに金子選手の目線も気にしながらプレーしていましたから。
栗原 いやあやっぱり、能力が高いだけじゃなくてそういう読みも素晴らしいし、改めてすごい選手だなと思いました。自分もまだまだもっと見る目を養わないとダメだなと思いましたね。確かに金子選手の特徴は分かりやすいんだけど、早く動きすぎても、股を狙われたりもするからね。そうやって瞬間的に判断して、プレーの選択ができるところがやっぱり素晴らしいなと改めて思いました。
昌子 栗原さんも現役の選手やったんで分かってくれますけど、ホンマに0.何秒の世界ですからね。瞬時に状況は変わりますし、そのなかであのシーンについては冷静に見えていたなと自分でも思います。
栗原 じゃあ間違いない。もうあのシーンがベストプレーですね!
[プロフィール]
栗原勇蔵/1983年9月18日生まれ、神奈川県出身。横浜F・マリノスの下部組織で育ち、2002年にトップ昇格。元日本代表DF松田直樹、同DF中澤佑二の下でセンターバックとしての能力を磨くと、プロ5年目の06年から出場機会を増やし最終ラインに欠かせない選手へと成長した。日本代表としても活躍し、20試合3得点を記録。横浜FM一筋で18シーズンを過ごし、19年限りで現役を引退した。現在は横浜FMの「クラブシップ・キャプテン」として活動している。