“バブル崩壊”バルサ、負債額1755億円の衝撃 苦難直面も…“ソシオ制”維持の姿勢に期待
ラポルタ会長が宣言した「ソシオ制」維持に見出す希望の光
それはともかく、今回の会見ではっきりしたのは、メッシの退団は現状「クラブの存続か、メッシ残留か」という究極の選択を迫られた結果だということだ。もちろん、クラブ最大の資産であり、広告塔であるスーパースターの流出は痛い。しかし単純に、今のバルセロナにアルゼンチン人の給料を払う金がないのだ。
これはまた、事実上崩壊したにもかかわらず、欧州スーパーリーグ結成にバルセロナが今もしがみついている大きな理由でもある。国内最大のライバルであるレアル・マドリードのフロレンティーノ・ペレス会長にあそこまで追従するのはおかしいとは思ったが、背に腹はかえられぬ苦しい台所事情があったのだ。
しかしこうした苦境に立たされても、ラポルタ会長は伝統のソシオ、つまり市民クラブであり続けると宣言する。確かに1775億円の負債は大きいが、実際にクラブを売りに出せば、メッシ不在でもこの借金を帳消しにして、新たに資金を導入するというオーナーが現れるのは確実だ。
スーパーリーグ問題が紛糾した際、オーナーに対するボイコット運動が激化したアーセナルに対し、世界一の音源配信会社を設立した「スポティファイ」のダニエル・エク氏が20億ポンド(約3080億円)の買収オファーを出した。
無論この例を見るまでもなく、バルセロナが売りに出された場合、このエク氏以上のオファーが出現するのは必至。負債を肩代わりして余りある金額が提示されるはずだ。
けれどもラポルタ会長は、市民が共同オーナーである現在のバルセロナのオーナーシップを変更するつもりはないという。
個人的には、これが後に「素晴らしい決断だった」と評価されてほしいと思っている。そもそもコロナ禍と不正もあると見られる放漫経営で、バブルが弾けて巨大な負債を抱えた直後だからといって、市民クラブとしての素晴らしい歴史と伝統を誇るクラブを売却するという方策はあまりにも安直だ。
筆者が英国に移住して28年。この間、欧州で真の黄金期を築いたと言えるのはアレックス・ファーガソン監督下のマンチェスター・ユナイテッド、そして2000年代半ばから台頭したグアルディオラ監督率いるバルセロナの2チームだけではないだろうか。
そしてこの2チームの偉大な共通点は、両者ともユースから育った生え抜き選手が中核となったことである。
ユナイテッドは「クラス92」で有名なライアン・ギグス、ポール・スコールズ、デイビッド・ベッカム、ギャリーとフィルのネビル兄弟、ニッキー・バット等の生え抜きが揃ってレギュラーとなり、偉大な99年のトレブル(三冠)を達成した。
一方のバルセロナもカルレス・プジョル、シャビ、アンドレス・イニエスタ、ビクトル・バルデス、そしてここに13歳でアルゼンチンからバルセロナに渡った稀代の天才児メッシが加わり、驚異のポゼッションサッカーを完成させて欧州を席巻した。
そんな原点を、バブル崩壊という惨事を契機に見つめ直してほしいと切に願うのだ。
森 昌利
もり・まさとし/1962年生まれ、福岡県出身。84年からフリーランスのライターとして活動し93年に渡英。当地で英国人女性と結婚後、定住した。ロンドン市内の出版社勤務を経て、98年から再びフリーランスに。01年、FW西澤明訓のボルトン加入をきっかけに報知新聞の英国通信員となり、プレミアリーグの取材を本格的に開始。英国人の視点を意識しながら、“サッカーの母国”イングランドの現状や魅力を日本に伝えている。