F・トーレスを再生させた情熱の指揮官シメオネ “たった一言”の真実とは
トーレスを復活させたシメオネのたった一言
「若いころのように、自分がアトレティを救わなきゃいけないなんて思わなくていい。我々とともに成長していけばいいんだ」
特別大きな責任を背負うことなく、あくまでもチームを構成する駒の一人として、与えられた役割を全うすればいい。そんなメッセージを送ることで、シメオネはトーレスが10代のころからどのチームでも背負い続けてきたエースとしての重圧を取り払い、感性の赴くままにゴールへと突き進んでいた昔のプレーを引き出そうとしているのかもしれない。
30歳の大台に乗り、2児を持つ父親にもなったが、ピッチ上では良くも悪くも“少年”のままでいい。もしシメオネがそんなふうに考えているのだとしたら、個人的には大賛成だ。
見る者の失笑を買うような珍プレーを連発するかと思えば、ここぞという時にものすごいゴールを決めてみせる。そんなエルニーニョの予測不可能なプレーが見たいと思っているファンは、他にもきっといるはずだから。
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アトレチコ復帰から2シーズン目となった今季(15-16シーズン)、トーレスはさらなる輝きを見せている。今年2月6日の第23節エイバル戦でアトレチコでの通算ゴール数「100」を達成し、CL準々決勝バルセロナ戦では貴重なアウェーゴールを奪うなど、決勝進出までの原動力となっている。
5月28日、自身2度目となるCL決勝で、エルニーニョは果たしてどのようなプレーを見せてくれるだろか。まるで“少年”が遊んでいるかのように楽しんでいる姿がそこにあった時、クラブ史上初のビッグイヤーも、現実のものになるかもしれない。
[PROFILE]
フェルナンド・トーレス
1984年3月20日、スペイン・マドリード生まれ。愛称は「エルニーニョ」。11歳でアトレチコ・マドリードの下部組織に加入。2001年にプロデビューし、19歳で主将を務める。07年にリバプールに移籍。11年チェルシーへ、14年夏、チェルシーからレンタルでミランに移籍。その後、出場機会に恵まれず、2015年1月に古巣のアトレチコへ復帰。15-16シーズンより背番号を慣れ親しんだ「9」番へと変更。5月28日、UEFAチャンピオンズリーグ決勝に挑む。
〈サッカーマガジンZONE 2015年4月号より一部加筆修正をして転載〉
【了】
工藤拓●文 text by Taku Kudo
ゲッティイメージズ●写真 photo by Gettyimages