英国サッカーから人種差別が消えない理由 涙の19歳に卑劣な投稿、高まる撲滅への機運

ラッシュフォードの壁画にはたくさんのメッセージが届いた【写真:AP】
ラッシュフォードの壁画にはたくさんのメッセージが届いた【写真:AP】

最後には「愛が常に勝つ」…英国で人種差別に再び突き付けられた強烈な「NO」

 折しも、この原稿を書いている7月16日、EURO決勝以来、無言を貫いていたサカが自身のインスタグラムに長いメッセージを投稿した。

 アーセナルFWはまず「この投稿で僕がどれだけありがたいと思っているか伝えることはできない」と綴って、不当な人種差別に憤慨した大勢のファンからたくさんの温かい励ましの言葉が届いたことに感謝した。また、PKを外した瞬間については「あの失望は言葉にできない。この国のすべての人の期待を裏切ってしまったと感じた」と語り、その衝撃の大きさを伝えた。

 そして肝心の人種差別に関しては「PKを外した瞬間、こうした憎しみが寄せられることは分かっていた」として、英国に潜む醜い人種差別の存在を認識したが「これで自分が壊されることはない」と強く反発。最後には「愛が常に勝つ」と文面を締めた。

 そう、筆者にとっても今や英国は第二の母国である。この国のフットボールを愛し、リバプールを愛し、子どもの頃に大好きになって以来、今も聴き続ける“愛こそすべて”のビートルズを愛す。そしてイングリッシュの妻と巡り合い、ここで家族も育んだ。サカが言うとおり、最後は憎しみが滅び、常に愛が勝ってほしいと望む。

 実際、マンチェスターの街角に貼られたラッシュフォードの大ポスターにも人種差別的な落書きが行われ、人々の心を傷つけたが、翌日から大勢のファンがその落書き部分に激励のメッセージを貼り、色とりどりの便箋、ハート型のカードで薄汚い中傷を綺麗に消した。

 また今回の母国の代表に対する侮辱には、英国当局も黙っていなかった。すでに人種差別投稿容疑で5人の逮捕者が出て、少なくともそのうち2人は実名報道されている。

 ついに反撃が始まった。28年前は18歳の尊い命が犠牲になった。そして今回は19歳の純粋な涙が大勢の人間の心を動かし、EU離脱以来、不気味に許容されてきた人種差別に再び強烈な「NO」が英国で突きつけられつつある。

(森 昌利 / Masatoshi Mori)

森 昌利

もり・まさとし/1962年生まれ、福岡県出身。84年からフリーランスのライターとして活動し93年に渡英。当地で英国人女性と結婚後、定住した。ロンドン市内の出版社勤務を経て、98年から再びフリーランスに。01年、FW西澤明訓のボルトン加入をきっかけに報知新聞の英国通信員となり、プレミアリーグの取材を本格的に開始。英国人の視点を意識しながら、“サッカーの母国”イングランドの現状や魅力を日本に伝えている。

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