英国サッカーから人種差別が消えない理由 涙の19歳に卑劣な投稿、高まる撲滅への機運
熱烈なサッカーファンでもある貧困層に多い人種差別主義者
もしかしたら、多くの日本人が「こうした感覚は理解できない」と思うのではないだろうか。ただし海外で一度でも白人に理不尽な怒りや軽蔑や嘲笑がこもった目で差別の言葉をぶつけられた経験があれば、その衝撃に震え、愕然とした思いを味わったはずだ。旅行者だったら、もう二度とその国には行きたくないと思ったことだろう。
人種差別の怖いところは、差別の相手が簡単に見て判別できることだ。一目で分かる。一方、筆者の息子のように生粋のイングリッシュであっても、見た目が違うという理由で差別される。そもそも差別のいわれがないうえに、間違った対象であるにもかかわらず、だ。
そして現代では、こうした伝統的な他人種に対する差別意識に貧困の問題も加わる。白人社会のすべての階層にこうした人種差別主義者は存在するが、特に貧困層に容赦ない、開き直った人種差別主義者が多い。お気づきの読者もいらっしゃると思うが、この白人層は熱烈なサッカーファンでもある。
もちろん、例外や個人的な体験が生み出した差別意識もあると思うが、大抵の場合、自分の貧困の責任が外国人にあるという責任転嫁がその憎悪に結びつく。
外国人が俺の仕事を奪う。外国人が本来は俺に回ってくるはずだった補償や支援を食い潰す。これは英国が世界に誇る医療無料のシステムが、EUからの移民によって蝕まれ「このままでは崩壊する」と訴えたEU離脱賛成派の政治家たちが訴えたロジックにも共通するものだが、こうした考えがこの国の貧困層にしっかりと普及され、根付いているのである。
そう、英国民に外国人を毛嫌いする気分が強いからこそ、世界がまさかと驚愕したブレグジット(EU離脱)が達成された。この外国人嫌いは、他人種を嫌う気持ちと非常に似通ったものがある。
だから筆者は、ブレグジットをリードした保守党のボリス・ジョンソン英首相に一抹の不安を抱く。英国人の妻を持ち、4半世紀もここで暮らし、税金を払い続け、7年後には年金も受け取れる。しかし彼が誇りとする美しい英国には、自分は含まれていないと感じてしまう。
森 昌利
もり・まさとし/1962年生まれ、福岡県出身。84年からフリーランスのライターとして活動し93年に渡英。当地で英国人女性と結婚後、定住した。ロンドン市内の出版社勤務を経て、98年から再びフリーランスに。01年、FW西澤明訓のボルトン加入をきっかけに報知新聞の英国通信員となり、プレミアリーグの取材を本格的に開始。英国人の視点を意識しながら、“サッカーの母国”イングランドの現状や魅力を日本に伝えている。