英国サッカーから人種差別が消えない理由 涙の19歳に卑劣な投稿、高まる撲滅への機運

一部の人間に根付く「白人以外の人種は劣った生き物」という考え

 そんな個人的体験があるからこそ、人種差別については普段から学び、考えている。そこで、今回のイングランド代表に対する人種差別問題が起こったことを契機に、ここで恐れることなく、英国で26年間暮らし、現地で2人の子どもを育てた日本人として、極めて端的にこの国の人種差別について記してみたい。

 まず厳然で単純な事実――。それは基本的、また根本的にも、この国の人種差別は白人によって行われるということである。対象は非白人。この図式は絶対的だ。特に黒人に対する差別は伝統的で、最も過酷である

 なぜか。それは黒人が奴隷にされた歴史があるからだ。黒人への圧倒的かつ絶対的な差別意識が生まれたのは、中世15世紀の大航海時代とされる。いわゆるアフリカの黒人を奴隷としてアメリカのプランテーションに運んだ三角貿易が始まったことがきっかけだった。

 しかし当初、英国をはじめとする欧州全域で信仰されたキリスト教は奴隷を禁じていたという。基本的に、無条件に隣人を愛せと教えるこの宗教は、同じ人間を奴隷として扱うことを許さないのである。そこで「黒人は我々白人とは違う、劣った生き物である」という考え方が編み出された。つまり当時の白人は、黒人を奴隷として使ってもキリストの教えに背かず、さらに罪悪感を持たなくていいように「あいつらは人間ではない」という意識を生み出し、広めたというわけだ。

 そして「黒人は我々と同じ人間じゃない」「知性的に劣った生き物」という強烈かつ伝統的な差別意識は、残念ながら600年後となる21世紀の今にも形を変えながら密かに、しかし確実に存続しているのである。

 結論から言うと、一部の白人は今もこうした差別は当然だと思っている。そして罪悪感を感じない。その根本には中世に捏造された「黒人をはじめ、白人以外の人種は劣った生き物だ」という考えがあるからだ。

 だから白人が使う差別語、例えば黒人に対する「ニガー」という言葉(英国では完全に、おそらくアメリカでもタブー的放送禁止用語。本当はここでカタカナ表記するのも吐き気を覚えるような忌まわしい言葉である)があるが、この言葉には「人間でない」「劣った動物」という意識がはっきりと刻まれている。

 日本人に対しては「ジャップ」という言葉があるが、そこにも同様の劣った生物に対する侮蔑、軽蔑のニュアンスが色濃く含まれている。同じ人間なのに、肌の色や目の色が違うことで一方的に劣っていると判断する意識――これが大問題なのだ。

森 昌利

もり・まさとし/1962年生まれ、福岡県出身。84年からフリーランスのライターとして活動し93年に渡英。当地で英国人女性と結婚後、定住した。ロンドン市内の出版社勤務を経て、98年から再びフリーランスに。01年、FW西澤明訓のボルトン加入をきっかけに報知新聞の英国通信員となり、プレミアリーグの取材を本格的に開始。英国人の視点を意識しながら、“サッカーの母国”イングランドの現状や魅力を日本に伝えている。

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