本田、香川らが五輪で味わった“3戦全敗”の屈辱 「勝てる相手」と戦う初戦の難しさ
A代表経験者は多かったが大舞台で戦う経験が不足していた
前半20分、日本は理想的な先制機を作った。右CKで本田圭佑から短いパスを受けた内田篤人が、ニアサイドの香川真司へつける。香川が内田へ戻すと、今度は逆サイドへグラウンダーの速いクロスを入れた。ゴール前では、森重真人が完全にフリー。あとは無人のゴールへ向けて合わせれば良かった。
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「あらかじめ準備してきた5~6パターンの一つ。でも使ったのは、あれが最初で最後になった。たぶんトラウマになったんだろうな……」(反町監督)
決定的なシーンで、森重はミートに失敗し枠を外してしまう。日本は千載一遇のチャンスを逃した。
しかし、本来のレギュラーセンターバック(CB)2人を欠くアメリカは守備が不安定で、何度も日本の右サイドを空けてしまい内田がフリーで駆け上がった。最初のチャンスは逃したが、日本は主導権を握りながら前半を終了している。
ところが後半開始早々に均衡は破れた。米国は右サイドバック(SB)のマルベル・ウィンが長友佑都と並走しながらクロスを入れる。水本裕貴が跳ね返すが、目の前のスチュアート・ホルデンに渡ってしまった。ホルデンのシュートにはGK西川周作も反応したが、ボールはコロコロとゴールへ転がった。
日本にはツキもなかった。香川のクロスを本田がフリーで狙う。さらには交代出場の李忠成が、長友からのボールをGKとの衝突を怖れずに飛び込むが枠をかすめる。アディショナルタイムには、豊田陽平に対する明らかなPKを見逃されてしまった。
その後、日の丸をつけて大舞台で戦っていく選手たちも、まだ経験不足だった。
「特に長友は過緊張で、開始5分で安田理大にウォームアップを命じた。すでにフル代表でのデビューを果たしているのに、そういう状態だった」(反町監督)
結局勝たなくてはいけない初戦で躓いた日本は3戦全敗で大会を終える。成長途上の選手たちに、黒星スタートから巻き返す力はなかった。
だがこの悔しさは、大きなバネになった。香川、本田、長友、内田、吉田麻也、岡崎慎司……何人もの選手たちが欧州へ飛び立ち、そこで確固たる実績を残していくのだった。
(加部 究 / Kiwamu Kabe)
加部 究
かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。