“無敗”川崎が独走するJ1に波乱の予感? 5連勝の横浜FM、監督交代劇も方向性ブレず

柏戦で2つの得点に絡んだ横浜FMのFW前田大然(写真右)【写真:Getty Images】
柏戦で2つの得点に絡んだ横浜FMのFW前田大然(写真右)【写真:Getty Images】

【識者コラム】前半に退場者を出すも横浜FMが柏に勝利、攻撃に出る迫力で相手を凌駕

 川崎フロンターレの独走で決着の様相が濃かったJ1リーグだが、ここから波乱含みの第二幕が開く可能性がある。そんな予感を後押しするのが、川崎とは対照的に開幕で躓いた横浜F・マリノスの見事な立ち直りぶりだ。

 第21節、7月最初の試合をアウェー(柏レイソル戦/2-1)で戦った横浜FMは、前半35分にマルコス・ジュニオールを退場で失うことになった。だが横浜FMは10人になっても、まったく攻めの姿勢を崩さず、むしろ攻勢を強めた。グラスゴー(セルティック)へ去ったアンジェ・ポステコグルーから指揮権を引き継いだ松永英機監督が言う。

「10人になってオーソドックスなら4-4-1にするが、敢えて4-3-2にした。攻撃的なスタイルを変えず、MF3人でボールサイドで守備をする。なおかつ前線に2人置いたことでチャンスを作り、2点が取れた」

 一方、オルンガ(→アル・ドゥハイル)に続き江坂任(→浦和レッズ)と主力が去り苦戦を強いられている柏のネルシーニョ監督は、最終ラインに5人を並べ堅守から前線へ速くボールを送ることで活路を見出そうとした。実際、前半は主導権を握られながらも、同等にチャンスは築けてきた。しかし相手が10人になっても先手を打てず、逆に横浜FMの持ち駒の特性が光り始める。特に右サイドバック小池龍太のダイナミックな動きに牽引されるように、攻撃に出る迫力で完全に柏を凌駕するようになった。

 そして決定力で違いをもたらしたのが、前田大然だった。先制ゴールは、最後尾近くからティーラトンがディフェンスラインの背後に送ったボールを、競り勝って躊躇なくオナイウ阿道へ繋ぎ生み出した。また2点目はGKキム・スンギュへのバックパスを狙って、完全に個の力で奪い取った。

 横浜FMは、ポステコグルーの招聘で哲学が一変した。試合後の指揮官のコメントも「自分たちのサッカーができたかどうか」に集約され、対戦相手に応じた対症療法に拘るタイプではなかったので、監督が代わっても方向性はブレず大きな影響は見えない。

 逆に首位を走る川崎は、ここからが正念場になる。AFCチャンピオンズリーグ(ACL)が極端にレベルダウンしたことで、厳しいのは韓国勢との対戦だけになったが、逆に勝ち上がって試合数が増えていくのは確実になった。また前半戦では、ほぼ休まずフル稼働した田中碧が抜け、さらに三笘薫、旗手怜央もしばらく五輪のために離れることになる。その後三笘の欧州移籍が待っているのも確実視される状況で、さすがに層の厚い川崎でも序盤戦のような快進撃を続けるのは難しい。

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加部 究

かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。

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