サッカーと選手・監督への「批判」 EUROで興味深かった痛烈な指摘と“返し方”

元ドイツ代表キャプテンのローター・マテウス氏【写真:Getty Images】
元ドイツ代表キャプテンのローター・マテウス氏【写真:Getty Images】

母国ドイツを痛烈批判したマテウスだが、ポルトガル戦快勝で一転して賛辞

 例えばドイツ代表は今大会3バックシステムを基調としたが、初戦フランス戦で0-1と敗れた後、元ドイツ代表キャプテンのローター・マテウスは「オフェンスがあまりに機能していない」と批判し、バイエルン・ミュンヘン勢を中心とした4バックシステムを採用すべきだというのを口にし、それがメディアで大々的に報じられた。

「戦術的に賢い決断だったとは思わない。守備で保険をかけるのが必要なのは理解するが、0-1となった後はもっとリスクをかけて攻めるべきだ」

「ポルトガル戦ではバイエルンシステムを採用したほうがいい。(ヨシュア・)キミッヒはセンターのポジションでこそ貴重なのだ。彼の持つポテンシャルを発揮できるのはサイドではなく、センターだ」

「フランス代表における(ポール・)ポグバや(エンゴロ・)カンテのようなプレーができるのはキミッヒだけ」

「3バックを諦めて、3バックにしてオフェンシブな選手を1人増やしたほうがいい」

 さて実際のところ、2戦目のポルトガル戦ではフランス戦とまったく同様のスタメンで挑んだわけだが、結果は内容的にも素晴らしいプレーが多く、4-2と快勝をしたドイツ代表。するとマテウスは、こんなコメントを残している。

「相手に先にリードを許しながら、そこからどのように試合をひっくり返したのかが何より素晴らしかったと思う。この情熱的なプレーをすることができたら、我々はいつだって、どんな大会でも優勝候補だ!」

 あれ? 急に?

「我々がフランス戦後に批判したことを見事に実践してみせた。3バックそのものに反対していたわけではない。アグレッシブで、コンパクトで情熱的にプレーをした」

 自分たちの批判があったからこそ、チームは良くなったのだという発言に聞こえなくもない。たぶん、彼らにとってこれは言い逃れではない。あくまで自分の意見をメディアで口にしている。

 たぶん、大事なのはそして事象への批判であって、人間性の否定ではないということなのだろう。そうした関係性を分かっているから、ヨアヒム・レーブにしても代表選手にしても、いろいろな批判や指摘をされても「専門家は自分の意見を言うのが仕事だから」と、理解を示したりする。

page1 page2 page3

中野吉之伴

なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。

今、あなたにオススメ

トレンド

ランキング