131年ぶりの“掟破り”…エバートン就任劇が起きた背景 実直な男の地元“リバプール愛”

ニューカッスル時代には日本代表FW武藤嘉紀を指導【写真:Getty Images】
ニューカッスル時代には日本代表FW武藤嘉紀を指導【写真:Getty Images】

ニューカッスル監督時代のベニテスを取材して感じた実直な性格

 そんな生のベニテスと実際に直面することができたのは、日本代表FW武藤嘉紀がニューカッスルに移籍してからのことだった。

 会見でも聞けば、どんな質問にもしっかり答えてくれるという印象はあった。思ったことを正直に話してくる。そんなベニテスと2人きりで話すチャンスが生まれた。それは2018年12月15日に行われた、ハダースフィールドとのアウェー戦直後のことだった。

 武藤を追ったため、監督会見を見逃した筆者は、質疑応答を終えてちょうど会見室を後にしたベニテスと通路でばったり出くわした。このチャンスにダメでもともと、マンチェスター・ユナイテッド戦で初ゴールを奪いながらも、この試合でも出番がなく、出場機会が増えない武藤の状況について聞いた。

 本来、会見に出席しなかった記者に対応する義務はない。帰りのバスを待たせていると立ち去るのが自然だ。しかしベニテスは立ち止まり、きちんと話をしてくれた。要約すると、「プレミアの1年目はどの選手にとってもきつい。(武藤は)このリーグの、特にフィジカルな戦いにまだ慣れていない。相手によって出番のない試合もある。特にハダースフィールドのような守備を固めた相手との競り合いはまだ荷が重いと判断した」ということだった。 

 それ以来、筆者の顔を見れば目くばせで挨拶をし、手の届くところでは握手をしてくれた。一度言葉を交わして、顔を覚えるとそういう対応をする人間で、まさに誠実、実直と呼ぶにふさわしい性格の持ち主だと思った。

 確かに狡猾さという点では、アレックス・ファーガソンやジョゼ・モウリーニョには敵わないかもしれないが、とにかく真面目で真っ直ぐで、ひたむきさでは誰にも負けない。特にサッカーチームを監督することで呼吸するベニテスは、どうしても監督業から離れられない。

 しかしリバプール監督だった自分がいる。さらに過去の発言がある。2007年2月にエバートンを「スモールクラブ」と呼んだ自分がいる。けれどもその一方で、エバートンというクラブを指揮するチャンスを失うのは耐え難いという自分がいる。

 また2012-13シーズンに、この時は半年の期限付きで“代行監督”という立場ではあったが、やはりかつてのモウリーニョとのライバル関係で異常なほど敵視されたチェルシーの監督を引き受け、その結果チームをUEFAヨーロッパリーグ優勝に導き、最終的にはファンにも感謝されたという経験もある。

森 昌利

もり・まさとし/1962年生まれ、福岡県出身。84年からフリーランスのライターとして活動し93年に渡英。当地で英国人女性と結婚後、定住した。ロンドン市内の出版社勤務を経て、98年から再びフリーランスに。01年、FW西澤明訓のボルトン加入をきっかけに報知新聞の英国通信員となり、プレミアリーグの取材を本格的に開始。英国人の視点を意識しながら、“サッカーの母国”イングランドの現状や魅力を日本に伝えている。

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